今日のランチ

今日のランチ

2018/12/07

今日のランチ(2018.12.7)

麻婆丼・春雨サラダ・ワカメスープ・牛乳・マンゴープリン

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 その男は飢えていた。

 大陸各地を転々と旅し、仕事を変えながら美味、珍味、地元料理を食べ尽くすも、彼の飢えを満たすことはなかった。北京の宮廷料理、広東の上品な味わいも、彼は物足りなく感じた。

 永い旅の果てに彼の衣服はボロボロにほつれ、髪は乱れ、髭は顔面を覆った。靴は原型を留めず、黄色い砂に全身は染まった。

 この道に終わりがあるのか、そう思う頃、四川省の厳しい山間に開けた空間を見つけた。時の流れから隔絶された悠久の渓谷、美しい風景と、全てを覆う霧が立ち込めている。

 そこに翁がひとり、岩の上に座っていた。優雅な衣服と、長く白い髭。一目で分かる、仙人だ。

「お前、何を求める」仙人が問うた。

「わが飢えを満たすものを。」男が応える。

「ほう、獣のような眼光じゃ」仙人はにやりと笑った。

「しかしお前の飢え、渇きを満たすものはこの世にない。お前自身がつくらねばな」

「覚悟はあります」男は食いつくように言った。この好機を逃すまい。

「お前が足りないと思っているものは刺激である。それは身を焼き尽くす炎のような、天を貫く稲妻のような、悪魔の味である。しかしこれをお前に伝えたとき、お前はそれに縛られ、今度は多くの人にそれを伝える使命が生まれる。まだまだ死ねんぞ」仙人は目を細めて、また笑った。

「この飢え、満ちるならば」男は静かに拳を握る。

「よかろう、では授けよう。それはこの地に眠る伝説の香辛料、「麻」と「辣」じゃ。これを用い、至極の料理、完成させてみよ」

 かくして男は授かりし麻と辣を研究し、更なる年月を経て、麻婆豆腐を完成。山を下り、人々に振舞ったところ爆発的流行を生み、今日の麻婆丼に引き継がれている。これが1000年前から中国四川省に伝わる有名な麻婆誕生秘話である。

(M2)