自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2018/11/09
ごはん(のり佃煮)・鶏肉からあげ・和風サラダ・味噌汁・牛乳・カスタードワッフル
こんな夢を見た。
薄暗い和室の一室の畳に正座しており、目の前に和服に身を包んだ女が座っていた。
「からあげはお好きですか」女が口を開いた。
「たしなむ程度です」と私が答える。
二人の間には、雅な赤い器が空の状態で置かれている。妖艶な赤は暗がりにぼうっと浮かび、照らされる二人を妖しく浮かび上がらせるのだ。
「お味は何がお好みですか」女が言う。
「そうですね、私は塩が好きです」
すると女の表情が曇った。
「すみません、醤油しかご用意できません。お口に合うかどうか・・・」
「いえ、大丈夫です。しかし、なかなか来ませんなあ。」ネクタイを緩め、あたりを見渡した。
「・・・私の夫は、漆器職人でした。趣味などありませんでしたが、忙しい中で唯一の楽しみは、からあげを食べること。短い休みの間全国津々浦々渡り歩き、名物と呼ばれるからあげを食べ歩いておりました。そしてその内、からあげに見合う究極の器を作ると言い出したのでございます」
女は滔々と語る。目からは感情を読み取ることができない。
「そして寝食を忘れ、形から色から様々に試行錯誤し、器を作り続けました。からあげですか?そうですね、あまり詳しくは話してくれませんでしたが、新潟を訪れた際、日本海の近くの学校で頂いたものが一番だったそうです。
とにかく、そうして一年が過ぎたとき、器は完成しました。その朝、夫はその器を見ながら、『これで満足だ』と言うと息を引き取りました。
残された私は、からあげを憎みました。からあげが夫を魅了し、連れて行ってしまったのです。しかし、からあげから目を背けることは、夫の愛したものを否定すること、夫の人生を否定することになります。だから私はから揚げ屋となり、こうして皆さんにからあげを提供しています。・・・・・・もうお分かりですね、これが夫の作った器です」
そう言うと、女は目の前の赤い器に目を落とした。私はだまっていた。最早言葉は必要なかった。薄暗い部屋の中で、ただ時が流れていった。
ふと目を覚ますと、そこはいつもの寝室だった。体を起こすと、脇を転がるものがある。目をやると、そこには見慣れぬ赤い器と、美味そうなからあげが盛られていた。
(M.M)