今日のランチ

今日のランチ

2018/05/10

今日のランチ(2018.5.10)

菜めし・鶏肉から揚げ・小松菜ソテー・味噌汁・牛乳・バナナ

0510

 

 昨夜、奇妙な宇宙線が一帯に降り注ぎ、私の頭の中から「から揚げ」に関する一切の記憶が失われた。

 朝、漠然とした喪失感に襲われ目を醒ます。何かかけがえのないものを失ったような・・・・・・。しかしそれ以上は思考が働かない。霧がかかった状態である。身支度をして家を出る。午前中、霧が晴れることはなかった。心の中の空洞。その暗い洞穴を風が通り抜ける。今日は妙に肌寒い。春だというのに冷たい雨が降っていた。そしてランチ。列に並ぶ生徒たちの口から、「今日はカラアゲだね」という会話が聞こえた。カラアゲ・・・・・・?なにか思い出されようとするが、ぼんやりとした輪郭は形を成さない。いったいカラアゲなるものがどんな字を書くのかも不明だ。そうして私の皿に、カラアゲが盛られた。

 それは、肉という言葉で済ませるにはあまりに存在感があった。茶色くゴツゴツした表面は古代の山脈の岩を想起させた。これを無邪気に頬張れば、口の中を切るのではないか。そんな予感が私を躊躇させる。よく見れば硬く切り立った茶色の濃い部分と、比較的やわらかそうな白い部分がある。攻めるべき場所をよく吟味せねばならぬ。様々な角度から検証しつつ、カラアゲのカラとは「殻」のことを指すのだろうかと考える。ようやく一番良さそうな角度を見つけ、ガブリと噛み付いた。するとどうだろう、硬く香ばしい「殻」の下から柔らかくジューシーな肉が出てきた。口の中に広がる旨味と共に、「から揚げ」の記憶が洪水のように流れ込み、私は全てを思い出したのであった。

 

 その夜、再び宇宙線が降り注ぎ、私は「カレーライス」の記憶を失った。記憶を取り戻すための旅に出ようか。

(M.M)