今日のランチ

今日のランチ

2021/03/08

今日のランチ(2021.3.8)

菜めし・サケ塩焼・ひじき煮・味噌おでん・牛乳・ミニクレープ

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 ひじきが鉄分の王の座を追われてから、もう何年経つだろう。今や彼はさまよえる流浪の民。体はやつれ、黒ずみ、腰は曲がり、髪は乱れ、落ちくぼんだ眼はぎらぎらと光っている。きっかけは2015年の文科省が改定した成分表。鉄鍋でなくステンレス鍋が主流となったことでひじきに含有される鉄分の量が少なくなっているという指摘であった。そこからの展開は早かった。仲間のはずのレバーや小松菜からの蔑みの目。自分を慕ってくれていたマイワシは「ひじきさんの黒って鉄分の象徴だと思ってたけど、ただの雰囲気だったんですね。サイテー。」と言って去っていった。

 待ってくれ、違うんだ。ステンレス鍋には40年以上前から変わっている。今回の調査は国産ひじきが対象で、国内流通の10%。大きな割合を占める中国、韓国産のひじきは同じくステンレス鍋でも高い鉄分を含んでいる。だから安心して食べてくれ。その魂の叫びは、「ひじきは鉄分が少ない!」というセンセーショナルなゴシップにかき消された。

 鉄分の王の座を狙うものは大勢いる。レバー、小松菜、マイワシ、カツオ、そして新顔のサプリメントども。誰も彼も自らの鉄分含有量をいきなり宣伝しはじめ、広告の踏み台にしていった。「鉄鍋はすごい」とにわかにスポットを浴びた鉄鍋業界すら大いに盛り上がった。ついこの間まで同じ釜の飯を食うどころか混ざってご飯炊いていたのにこの仕打ち。

 仕方あるまい。鉄鍋を40年前に袖にしたのはこちらだし、長年の地位に甘んじて他の食材たちに尊大な態度をとっていたのも事実。それはひじきにもわかっている。身から出た錆、諸行無常、驕れる平家は久しからず、様々な言葉が脳内をリピートし、今はただかつての栄光を、ひじきの煮汁のようなセピア色の思い出をかみしめるばかり。

 一時期、学校給食からも見直しを図られたが、まだこうしてランチの片隅に居座り、復活を夢見ている。サケの座布団で終わってたまるか、次はコラボ企画だ、テレビ特番だ、と息巻く。なにせ日本のご老人たちはまだまだ元気なのだ。

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