お知らせ

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2020/03/17

<生徒の皆さんへ>中塚校長からのメッセージ

2020年3月16日

 

生徒のみなさんへ

 

 

 新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めようと、学校が休校になり2週間が経ちました。進級のための課題提出が終わってほっとしている人も多いことでしょう。思いがけず長くなった春休みを上手に過ごしてください。

 日本と同じように長期休校になったイタリアのミラノにあるアレッサンドロ・ヴォルタ高校のドメニコ・スキラーチェ校長が公開した手紙が世界的な話題になりました。17世紀のペストの流行を扱った作家、マンゾーニの小説『いいなづけ』の一節を引用しつつ、「デマに翻弄されず、休みの間もふだん通りの生活を続け、良質な本を読んでください」という生徒に向けたメッセージです。

 私もこのメッセージに共感した一人です。生徒のみなさんにはこの機会に上質な本に出会ってほしいと思います。現在公立の図書館では閲覧ができませんが、貸し出しは行っています。各種教育コンテンツも充実してきました。この機会にぜひ積極的に利用してみてはいかがでしょうか。

 私はマンゾーニの『いいなづけ』を読んだことがありませんでしたので、司書の先生に探していただきました。敬和学園の図書館にあったそれは、838ページ、二段組、厚さ4cmの大作です。少しひるみましたが、みなさんに良質な本を読みましょうと呼びかけたのですから私はまずこの『いいなづけ』を読むことにしました。

 

 感染がどれだけ広がるのか、休校がいつまで続くのか、予定通りに新学期を始められるのか心配なことばかりです。でも、こんなときだからこそむやみに騒がず、正しい情報をききわけ、落ち着いて生活しましょう。学校からの連絡をお待ちください。

 

 一日も早く学校が再開し、みなさんと過ごせる日が来ることを祈っています。

 

敬和学園高等学校 校長 中塚 詠子

 

 

 

 

以下 ミラノ ヴォルタ高校 校長先生の手紙の引用です。

 

――ヴォルタ高校の皆さんへ

 

 “保険局が恐れていたことが現実になった。ドイツのアラマン人たちがミラノにペストを持ち込んだのだ。感染はイタリア中に拡大している…”

 

 これはマンゾーニの「いいなづけ」の31章冒頭、1630年、ミラノを襲ったペストの流行について書かれた一節です。この啓発的で素晴らしい文章を、混乱のさなかにある今、ぜひ読んでみることをお勧めします。この本の中には、外国人を危険だと思い込んだり、当局の間の激しい衝突や最初の感染源は誰か、といういわゆる「ゼロ患者」の捜索、専門家の軽視、感染者狩り、根拠のない噂話やばかげた治療、必需品を買いあさり、医療危機を招く様子が描かれています。ページをめくれば、ルドヴィコ・セッターラ、アレッサンドロ・タディーノ、フェリーチェ・カザーティなど、この高校の周辺で皆さんもよく知る道の名前が多く登場しますが、ここが当時もミラノの検疫の中心地であったことは覚えておきましょう。いずれにせよ、マンゾーニの小説を読んでいるというより、今日の新聞を読んでいるような気にさせられます。

 

 親愛なる生徒の皆さん。私たちの高校は、私たちのリズムと慣習に則って市民の秩序を学ぶ場所です。私は専門家ではないので、この強制的な休校という当局の判断を評価することはできません。ですからこの判断を尊重し、その指示を子細に観察しようと思います。そして皆さんにはこう伝えたい。

 

 冷静さを保ち、集団のパニックに巻き込まれないこと。そして予防策を講じつつ、いつもの生活を続けて下さい。せっかくの休みですから、散歩したり、良質な本を読んでください。体調に問題がないなら、家に閉じこもる理由はありません。スーパーや薬局に駆けつける必要もないのです。マスクは体調が悪い人たちに必要なものです。

 

 世界のあちこちにあっという間に広がっているこの感染の速度は、われわれの時代の必然的な結果です。ウイルスを食い止める壁の不存在は、今も昔も同じ。ただその速度が以前は少し遅かっただけなのです。この手の危機に打ち勝つ際の最大のリスクについては、マンゾーニやボッカッチョ(ルネッサンス期の詩人)が教えてくれています。それは社会生活や人間関係の荒廃、市民生活における蛮行です。見えない敵に脅かされた時、人はその敵があちこちに潜んでいるかのように感じてしまい、自分と同じような人々も脅威だと、潜在的な敵だと思い込んでしまう、それこそが危険なのです。

 

 16世紀や17世紀の時と比べて、私たちには進歩した現代医学があり、それはさらなる進歩を続けており、信頼性もある。合理的な思考で私たちが持つ貴重な財産である人間性と社会とを守っていきましょう。それができなければ、本当に ‘ペスト’が勝利してしまうかもしれません。

 

 では近いうちに、学校でみなさんを待っています。