月刊敬和新聞

2020年2月号より「一人ひとりに与えられている喜ぶ力」

校長 中塚 詠子

笑顔で力を出し切る
 女子ゴルフで日本人として42年ぶりにメジャー大会の全英女子オープン優勝を飾った渋野日向子プロをご存知の方はたくさんいらっしゃると思います。全英女子オープン優勝そのものが歴史的快挙であることのみならず、世界中のメディアから「今まで見たことがない」と絶賛されたのが彼女のプレー中の笑顔です。「スマイルシンデレラ」と呼ばれました。
 優勝争いという極限の緊張状態の中で、コースをつなぐ通路のファンに対してハイタッチをしたり笑顔を投げかけたり、百戦錬磨の世界のトッププレイヤーたちでさえ「心臓が止まりそうだ」などと表現する最終ホールの大緊張の場面でも、彼女は満面の笑顔で強気のプレーで優勝を手にしました。自然な笑顔がファンのハートをわしづかみにし、その応援が結果的に彼女を優勝に導いたと多くの解説者が評価しました。

笑うと脳がよく働く
 さて、健康についても同様のことが言えるようです。健康に対する笑いの効果はいろいろな研究で確かめられています。1976年にアメリカのジャーナリストが自らの闘病記で「笑うことで自らの難病を克服した」と発表しました。このころから医学的な研究が始まり、笑うことによって免疫力が上がる、ストレスを感じにくくなるといった研究報告が相次ぐようになりました。他にも、体にさまざまな良い効果をもたらすことがわかってきました。
 笑うことにより脳の働きが活性化し記憶力が向上すること。思いっきり笑うことで腹式呼吸と同じ状態になり、体内に酸素が増えて血行が活発になること。緊張時には交感神経が優位ですが、笑うことで副交感神経が活発になり、自律神経のバランスが整うこと。笑うと鎮痛作用のある脳内ホルモンのエンドルフィンが分泌され、痛みを緩和することなどなど。
 笑うことはいいことばかりですが、日常生活で自然と笑えることはそんなにないかもしれません。しかし、別に楽しいことがなくても笑顔を作るだけで脳は笑っていると錯覚し、気分がほぐれてきます。「作り笑顔」をするだけでも脳のドーパミン神経活動が活発になり、「快」の感情が引き起こされ、より高いパフォーマンスにつながるという研究報告もあります。

希望の源から注がれるもの
 聖書では「笑う」「笑い」という言葉はほとんどありません。馬鹿にした笑いや、さげすみの笑いは出てきますが、明るい心からの笑いはないのです。心も体も前向きに活性化する様子は、聖書では「喜び」という言葉で表されることが多いようです。ローマの信徒への手紙15章3節では喜びと平和は希望の源である神によって得られると記されています。
 考えようによっては希望の源である神から無尽蔵に注がれる力があり、そのことに気づく素直さがありさえすれば私たちは希望と喜びにあふれて生きることができるという励ましでもあります。

笑って任せてみる勇気
 私たちはできないことや足りないことばかりを数えて自分を追いつめてしまいがちです。不平や不満をまくし立てることにエネルギーを使いがちです。それは私たちが等しく持っている弱さでもあります。だからこそその自分の弱さの中にうずくまるのではなく、笑って神様にお任せしてみてはいかがでしょうか。それが作り笑いだとしても、その見せかけの器の中にきっと本物の喜びと平和が注ぎ込まれてきます。その副産物として心も身体にも良いことが起こり、免疫力が上がったり、痛みが和らいだりするのではないかと私は思っています。
 「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」と言った哲学者がいます。神様からすでにいただいている「喜ぶ力」を使わないのはもったいないです。笑って、喜んで、私たちに与えられている力を確かめ感謝して歩んでいきましょう。