月刊敬和新聞

2019年9月号より「進路選択は成長の機会」

校長 中塚 詠子

推薦という入試制度
 夏休みが明けると、3年生は進路決定へ動き出します。敬和学園では指定校推薦や学内推薦をはじめとして「推薦入試制度」を利用して進学する生徒が多いのが特徴の一つです。
 この入試は先方の学校から「○○学部○○学科に敬和学園高等学校の生徒が一名ほしいです」という申し出があることから始まります。そこで学校は生徒にこんな学校から指定校推薦をいただいていますよとお知らせします。生徒の希望と出願条件が合えば推薦するという順番です。
 あくまで先方の入試に敬和から推薦されて出願するということですから敬和で指定校推薦の対象生徒になったとしても、それは出願資格をクリアしただけの話で合格したわけではありません。多くの指定校推薦では不合格になることはまれですが、いい加減な出願書類を作ったり、面接できちんと受け答えができないと不合格になることがあります。合否を決めるのはあくまでも先方の学校です。

簡単そうで実は大変な推薦入試
 推薦条件をクリアすることが出願条件ではありますが、事はそれほど単純ではありません。そもそもなぜ先方は推薦してほしいというのでしょうか?成績のいい人・ペーパーテストで高い得点を取る人がほしいのならば学力選抜試験だけでよいのです。そのほうが試験を一度だけすればいいので簡単なのです。
 推薦試験はやり方が色々ありますが、作文やエッセイを書いてもらうところが多いです。しかも2,000字とか1,600字とかある程度の量を求められます。これは自分の言葉で自分の考えを伝えられるかが試されます。志望動機を求める学校もあります。文章で提出を求められるところもありますし、面接で問われるところもあります。試験当日に小論文を書いてもらうというところもあります。
 なぜ時間も人もかけてこんな面倒なことをするのでしょうか?それは成績だけではない「人物」が求められているからです。運動に優れた人が募集される学校もあるでしょう。文化活動のリーダーがほしいというところもあります。キリスト教の大学では礼拝や修養会の企画運営ができる学生が求められます。
 そんな先方の求め以上に活躍してくれた先輩たちがいたおかげで敬和学園の生徒ならば間違いがない、期待以上の人材だからぜひ入学してほしいというのが推薦入試という仕組みです。

助けを求める力
 自分の進路ですから入試手続きや書類の記入など自分で行わなければなりません。この時期、教務室では相談に来る3年生が多く見られます。提出文章の添削や面接練習で教務室は賑わいます。私はこの光景を見て、毎年うらやましくて仕方がないのです。私が高校生だったとき先生とはこんな風に手伝っていただいたり、話をしたことがなかったからです。
 敬和生の良いところの一つに「助けてと言う力」があると思います。うまくいかないことやわからないことを前に素直に助けを求めることができる力です。何人かの生徒の志望動機書や自己アピール文の添削をしていますが、ゆっくり落ち着いて話を深めていくと、その人の中にあるぼんやりとした思いがだんだんはっきりと形になっていきます。そのことに気づくことができるとどんどん文章ができあがってゆき、最後は指定字数に収めるためにどこを削りどうまとめるかと悩むのです。
 私がこう書きなさいとかこう直しなさいということはしません。「あなたはどう感じたの?」「その前と後では何がどんな風に変わったの?」「具体的なエピソードはある?」と少し整理するだけで本当に書きたかったことや伝えたかったことを自分でどんどん文章にしていけるようになります。その過程で友だちにも助けを求めていることが多くあります。相談したり、文章を読んでもらったり、私はあなたからみてどんな人に見えているのかをインタビューしてみたりと模索しているのです。素晴らしい成長です。

 求めれば応える人がいる敬和学園
 助けを求められた人も損得ではなくできることを惜しみなく手伝ってくれたのでしょう。誰かが一緒に考えてくれて悩んでくれて、自分の弱さも不得意も共感してもらった安心感がしっかりと文章に表れるのです。
 通り一遍のうわべだけの作文ではなく、自分から逃げずに自分を見つめて出願書類を整えること、それが自分を大切にすることにつながっていくのです。進路選択もまた与えられた成長という恵みの機会です。