月刊敬和新聞

2019年5月号より「心の食事」

校長 中塚 詠子
朝食時差ボケ
 「朝食時差ボケ」という言葉があります。朝食を抜くと、午前中、頭がボーっとして体がだるくなり、仕事や勉強に対するやる気が出ない状態のことです。これは人間の「体内時計」の狂いが一つの原因です。
 2017年に体内時計に関係する領域の研究者がノーベル生理学・医学賞を受賞し、体内時計という考え方はより身近なものとなりました。朝食を食べないのは良くない、夜にお腹いっぱい食べるのは良くないと昔から言われてきましたが、研究によってそれが学問的に裏付けられるようになってきたのです。

脳の指令が時間をつかさどる
 標準時計に当たる主時計は脳に、ローカル時計である末梢時計は肝臓や腎臓などのさまざまな臓器に存在します。末梢時計にはそれぞれ特徴があり、それらがバラバラに働くと困ったことになります。そこで、主時計である脳が全体の調和が取れるように末梢神経に命令を出すのです。司令塔の主時計が壊れると、体内時計は調子が狂ってしまうのです。
 1日は24時間ですが、実は体内時計は毎日30分間ずれるということがわかっています。2日で1時間ですから、半月で8時間のずれが生じることになります。

光と食事
 そのずれを補正するメカニズムが働くためには光が大きな役割を果たします。研究者は「朝の光が主時計を30分進める。夜は逆に光を浴びると、主時計は遅れる。夜にパソコンやスマートフォンをやり過ぎると、ブルーライトの光によって『夜型』になってしまう」と指摘しています。
 一方、末消時計の活動は食事に影響されます。朝、昼、夕の三食を5時間遅らせ、正午、午後5時、午後10時に取ると体内時計は2時間30分ずれることが実験でわかりました。「主時計は影響を受けなかったが、末梢時計は5時間遅らせようとした。しかし、そのせめぎ合いの結果として2時間30分のズレが生じたのだろう」と研究者は解説しています。頭では「朝の9時だ。仕事をしよう」と思っても、首から下は午前11時30分にならないと調子が上がらないということです。
 末梢時計のリズムを整えるためには、食事の内容も大切です。米やパンなどの炭水化物と、肉や魚、卵、牛乳などのたんぱく質の組み合わせが良いといいます。『早寝、早起き、朝ご飯』。これには、科学的な理由があったのです。
 朝食抜きで正午ごろに食事をし、その次が午後10時か11時に食事を取るとすると、「絶食」の時間が長過ぎて、末梢時計は昼の食事を朝食だと勘違いしてしまい、体内時計は乱れます。
 朝食をきちんと食べ、食事は炭水化物とたんぱく質をしっかり摂取することを基本に、長時間の絶食状態にならないようにおやつや軽食を少量取ることが懸命な方法のようです。

心を「絶食」状態にさせない
 心も体内時計と同じような仕組みで働いているように私には思えます。人は何かに出会ったとき心が動きます。人や物事、できごと、芸術作品、自然などとの出会いによって心は動くのです。心が動かない時間が長ければ心も「絶食」状態になると私は思うのです。
 心が絶食になるとその人が本来持っている豊かさを育てることが難しくなります。敬和学園では行事が多く計画され、それを成長への大切な機会と捉えています。行事がうまくいくことや計画通りに進むことも重要ですが、その中で何かや誰かにぶつかることや腹を立てること疑問を持つことはもっと重要だと私は考えています。そこで深く考え、悩み、達成感があり、喜びがあり、心が動くからです。敬和学園でしっかり学校生活を送っていれば心が絶食状態にはなりません。
 逆に課題から逃げることだけを考え、やりたくないことを避け、何も考えず、人のせいにして学校生活を送るのであれば、残念ながらあなたの心はからからの絶食状態になってしまうでしょう。
 学習、生活、食事、行事。これらは別々のようで実は深くつながっています。しっかり食べて、しっかり休んで、たくさん感じて考えて、心と体を動かして成長して欲しいです。一つひとつの行事で心を動かし、他者と出会い、大きく成長する機会が敬和学園にはたくさんあります。