月刊敬和新聞

2019年2月号より「困っていることを持ち寄る」

校長 中塚 詠子

冬の空港
 冬になると「新潟に遊びにお出でよ」と友人を誘っても「春になったらね」と返されることが多くなります。理由は帰りの飛行機が飛ばなかったら困るから。冬の北国の空港は除雪が間に合わず欠航ということがあります。ところが就航率99%を誇る空港があるのです。それは旭川空港です。旭川空港はこの冬から「就航率99%の安心。」というキャッチフレーズで利用促進をアピールしています。
 2017年度の就航率は99.5%と三年連続で99%台を達成しました。冬場は暴風雪などによる欠航の心配がありますが、この冬も昨年末現在で天候が理由の欠航はゼロだそうです。その実績を支えているのは農閑期の近隣農家の方々35名でつくる除雪隊です。地元の天候を知りつくし、チームワークが自慢です。
 滑走路は長さ2,500メートル、幅60メートルです。「スノースイーパー」という除雪車5台が斜め一列になり雪をかきだします。朝一番の除雪は20人が担当です。一番機の到着に間に合わせるために作業します。旭川空港の年間の総降雪量は例年約400センチで、もちろん一日中雪が降り続く日もあります。飛行機には冬用のタイヤがありませんから滑走路は常に舗装面が出ていなければ離着陸ができません。滑走路を一時閉鎖して除雪作業を何度も繰り返す日もあり、除雪回数はひと冬300回を越えるそうです。大雪の日は午前1時から作業を始めることもあるといいます。

分担とは役割を分けることだけではない
 滑走路の除雪は雪国特有の課題です。除雪車の用意とそれを操作する人が必要です。手間もかかりますし、お金も人も必要です。一方で除雪隊のメンバーは近隣農家の方々です。冬の北海道は農地が雪と氷に覆われて農作業はできません。困っている双方が合体することで就航率99%の実績を上げることができました。そして旭川空港を利用する人たちは少しくらい雪が降っても99%飛行機は飛ぶから安心できます。
 学校生活は集団生活です。一人だけの努力や工夫も必要ですが、誰かと役割分担をする場面も多くあります。私は最も少ない労力で最も成果の大きいやり方はないものかと考えてしまいます。役割分担をしたときにしっかりと線を引いてしまう癖がありました。グループやチームで課題に取り組むときも自分のことはきちんとやってほかの人の分担ができていなかったり遅れたりしているときには手伝ってあげていると思っていました。思い上がっていたのです。

助けられた人が助けてくれる
 生徒の生活指導が立て込んで、朝からてんてこ舞いだった日のことです。昼食も夕食も取れずにバタバタしていました。私よりも若い別の学年担当の先生が8時過ぎにコンビニのお弁当を差し入れてくれました。その先生とは担当学年が違いましたし、特別に親しい先生ではありませんでしたから私は驚きました。「先生、顔がすごくこわくて余裕がないです。先生のためにも生徒のためにも食べて休んでください」と言われました。そして「私も昨年、他の方にしていただいて助かったので」ともおっしゃったのです。
 不遜にも私は孤軍奮闘していると思い込んでいました。違う学年の先生に負担をかけるわけにはいかないと思っていました。それは大きな間違いでした。自分の足りないところを他の人に助けてもらった、だから今度は自分のできるほんの少しを差し出してみるというあの先生によって私は冷静さを取り戻しました。さらにそれをきっかけに他の先生たちがフォローに入ってくださったのです。
 「足りない」「困っている」「できない」「難しい」ことを持ち寄ることで思いもかけない豊かな成果を得ることができるという体験でした。旭川空港の除雪の話はそれを思い出させてくれました。

マイナスを持ち寄る
 フィリピの信徒への手紙を書いたパウロは飢えと窮乏の生活を強いられたことが何度もありました。経済的危機だけではなく、迫害を受けて殺されそうになったこともありました。この手紙を書いた時も獄中にありましたから不自由だらけで足りないものばかりだったことでしょう。
 しかしパウロはそんな中にあって神様は「必要なものをすべて満たしてくださる」(4章19節)と言っています。足りないことや困ったことにしっかりと向き合う時、神様は隣人を通して私たちを予想以上の恵みで満たしてくださいます。