月刊敬和新聞

2017年12月号より「あなたは自分の声が好きですか」

校長 小西二巳夫

オードリー・ヘップバーン マイフェアレディ
 お笑いコンビ、オードリーのコンビ名の由来は世界的な女優オードリー・ヘップバーンからとったものだそうです。オードリー・ヘップバーンといわれても、敬和生のほとんどは、「それ誰?」となります。彼女の代表作に「マイフェアレディ」があります。音声学者のヒギンズ教授が下町で花を売っていた、言葉遣いが乱暴でタメ口のイライザの声を聴いて、この子でも自分がきちんと指導すれば、品性のある淑女レディにできるといいました。物語は教授の指導の下、彼女は言葉から立ち振る舞いまで、すべてにおいて品性を身につけていくというものです。イライザが自分の何が嫌いで変えたかったのか、それは貧しさです。彼女が特に嫌いだったのはヒキガエルのようといわれる自分の声でした。

八割の人が自分の声が嫌い
 イライザほどでなくても、自分の声が嫌いという人は少なくありません。それを裏付けるタイトルの本があります。声の専門家山﨑広子による「8割の人が自分の声が嫌い」です。私が初めて自分の声を聞いたのは小学校三年生の時です。それは出演した人形劇のセリフを録音したものです。瞬間的に思いました。「自分の声ってこんなん。いややなあ。恥ずかしいなあ」。山﨑さんによると自分の声が嫌いな理由は二つあるそうです。まず、声の中に「自分が嫌っている自分の本質」が表れているから。もう一つは声が「本当の自分のものではない」と感じるから。自分で自分の声が嫌いなのに、他の人が好きであってくれるはずはありません。そこで周囲の人から嫌われないために、自分の声ではない作り声で話すようになりがちとのことです。嫌われたくない、それを相手に悟られたくない、そのために相手に調子をあわせて作り声で話を続けると、精神的にどっと疲れる、エネルギーを消耗することになります。人間関係が面倒くさくなります。そして作り声は自然とトーンが高くなります。日本の若い女性は世界で一番高いトーンの声を出すとのことです。

オーセンティック・ボイスが自分を変えてくれる
 作り声を出すことが、クレーンで背中を吊り上げられながら歩いているようなものという意味で、山﨑さんはそのような人をクレーン女子、クレーン男子と名づけています。本当は地面をしっかり踏みしめて歩きたいのに、心や体がクレーンに吊られているような状態にあっては自分が好きになれるはずはありません。自分の声が嫌いなのは声だけのことにとどまりません。自分の人生を楽しくするために必要なのが自己肯定感ですが、作り声で話していると、それが持てなくなるのです。そこから明らかになるのは、自分の人生をしっかり生きるためには、しんどくない毎日を送るためには、自分の本当の声、無理なく出すことのできる心地よい声を見つけることです。
 そういう声をオーセンティック・ボイスと呼びます。オーセンティック・ボイスを見つける方法は、自分の声を録音して何度も聴き直す、その中から自分がいいと思った声を見つけ、その声を出した時の状況や心理状態を思い出しながら、その声を出した理由を探っていくことだそうです。自分の本当の声、オーセンティック・ボイスを出せるようになると、現実的な変化が起こって、健康的になり性格から容姿まで変わっていくのです。でもオーセンティック・ボイスを自分のものにするには相当努力が必要です。私も挑戦したいと思いますが、いつの間にか挫折している自分が目に浮かびます。

イエスはオーセンティック・ボイスの持ち主だった
 でもオーセンティック・ボイスを見つける目的が、自分を好きになること、自己肯定感を取り戻すことなら、他に方法があります。それは本当の声を聴くこと、本当の声から出てくる言葉に出会うことです。聖書を通して、その存在がどのようなものであるのかが語られているイエス・キリストは、本当の声で話す人だったのではないでしょうか。だからイエスの言葉が多くの人の心に届いたのです。そして多くの人が生きる力、自己肯定感を取り戻していったのです。そのイエスの声を私たちが聴こうとする、それが礼拝の時間です。毎日の礼拝を通して、私たちは本当の声と出会うことができるのです。そこに敬和学園が毎日礼拝を行う目的があります。そして、クリスマスは、私たちに本当の声、オーセンティック・ボイスを出せるように支えてくれるイエスの誕生を考える時です。