毎日の礼拝

毎日のお話

2026/03/05

大塚 忍(聖書科・労作科)

【聖書:マルコによる福音書 14章 51-52節】

「一人の若者が、素肌に亜麻布をまとってイエスについて来ていた。人々が捕らえようとすると、亜麻布を捨てて裸で逃げてしまった」

 

 

 

 キリスト教は今、レント(受難節)の時を過ごしています。これは、イエスが十字架につけられて殺された出来事の意味に静かに向き合う時です。旧約聖書ヨエル書には、「衣を裂くのではなく、お前たちの心を引き裂け」という言葉があります。悔い改めとは、単なる宗教儀礼ではなく、人間の現実に深く向き合うことを意味しています。

 マルコ福音書には、イエスが逮捕された場面で「一人の若者が逃げた」という不思議な記述があります。マルコはこの出来事を書かずにはいられませんでした。イエスを裏切った人物としてイスカリオテのユダが知られていますが、筆頭弟子のペトロもまたイエスを否認しました。さらに福音書は、「皆が彼を見捨てて逃げた」と記しています。人々はイエスの苦しみの場面から逃げてしまったのです。

 この若者は、福音書を書いたマルコ自身を象徴しているのかもしれません。彼は、自分もまた逃げた一人であることを隠さずに記そうとしたのかもしれません。それは、自分の責任を引き受けて生きるという決断だったのではないでしょうか。

 今日の世界にも、人間が人間の命を奪う出来事があります。レントの時、私たちはその現実から目をそらすのではなく、心を引き裂く思いで向き合うよう招かれています。そして、自分自身の責任を見つめながら、この世界に生きていくことが問われているように思うのです。