自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2024/11/11
【聖書:創世記 1章 27節】
「人は、神にかたどって創造された。」
皆さんはこのチャペルにOMホールという小部屋があるのを知っているでしょうか。
OMのOとは、初代校長、大田俊雄先生の頭文字です。Mはジョン・モス先生の頭文字です。
OMホールはお二人の働きを記念して設けられた部屋です。
モス先生はアメリカの教会から派遣された宣教師として、新潟県内の教会を様々な面からサポートされました。
「新潟県にキリスト教学校を」、という県内キリスト教会の長年の夢を実現するため、その中心的な役割を担われたのもモス先生です。
敬和学園は、新潟県そして全国のキリスト教会の祈りと支えによって造られた学校です。
モス先生は敬和学園、創立のために尽力され、開校してからも20年以上、副校長として学園の運営を支えてくださいました。
去年の11月、このチャペルで先生のお連れ合いであられた、モス・はつみ先生の記念会を行ったことを2,3年生は憶えていると思います。
ご夫妻の娘さんが、ご家族で来日されたのに合わせて、2年前にお亡くなりになった、はつみ先生の記念会をこのチャペルで行いました。
そのとき、ジョン・モス先生はビデオレターでメッセージを送ってくださいました。
先生は、記念会を開いてくれたことにたいする感謝の気持ちを日本語で私たちに伝えてくださいました。
そのモス先生から先月、突然、私あてにアメリカから手紙が届きました。
その手紙で、先生はお元気で、さまざまなアクティビティ(活動)やフレンドシップ(交友関係)を楽しみ、毎日、忙しくしている、と書かれた後、敬和新聞540号の巻頭言についての感想を書いてくださいました。
今年のフェスティバル特集号の第一面にある私の文章です。
私は、敬和新聞の巻頭言を毎回、書いていますが、それについての感想を聞くことなど、めったにありません。
それを海の向こうのアメリカから、わざわざ送ってくださったのです。
先生は現在94歳です。
また、日本語があまり得意ではありません。
今回の手紙にも、「日本語で敬和新聞を読むのは大変だった、」と記してありました。
その先生が苦労して日本語の敬和新聞を読み、それについてお手紙を送ってくださったのです。
本当に驚きました。そして大変、励まされました。
私はその敬和新聞で、今、世界で進んでいる民主主義の危機に触れました。
世界ではさまざまな分断が生まれています。
その中でも特に心配なのが、強大な権力をもつ独裁的な政治家が支配する国と民主主義の国との分断・対立が進んでいることです。
一部の権力者が国民を支配する国を専制国家と言います。
それに対して、日本のように権力者の権限が憲法によって制限され、国民が主権者である国を民主主義国家と言います。
少し前までは、専制国家はいずれ行き詰まり、多くの国々が民主主義の国になるだろう、と考えられていました。
しかし、現実はそう簡単ではありませんでした。
今、専制国家が勢力を増しつつあるようにさえ思えます。
専制国家と民主主義国家の一番大きな違いは、個人の人権、言論の自由が認められているか、どうかです。
日本では総理大臣の悪口を言っても、逮捕されることはありません。
それは日本が民主主義国家だからです。
しかし専制国家では、国の権力者を否定することは許されません。
場合によっては逮捕されることもあります。
私は、敬和新聞の文章のなかで、民主主義とキリスト教の関係について触れました。
モス先生は、それは重要なポイントだ、と指摘され、先生ご自身がイェール(Yale)大学の学生の頃に書いたレポートのコピーを同封してくださいました。
手書きの4ページほどのものです。
Yale大学といえばアメリカの超名門大学です。先生はそこで学ばれました。
レポートの日付は1954年ですから、今から70年前、先生が24歳のときに書かれたものです。
内容は、17世紀イギリスのピュリタン革命の頃、活躍したジョン・リルバーン(John Lilburne)という、日本では知られていない人物についてです。
ピュリタンとは、キリスト教の宗派ですが、当時、信仰の自由をもとめてイギリス国王、チャールズ一世と対立しました。
チャールズ一世は専制政治をしいていました。
その闘いのなかでリルバーンは何度も投獄され、ムチで打たれる経験もしています。
彼は、次のように述べます。
「人間は神によって創られ、神の像が刻まれている存在である。
いかなる権力もその尊厳を侵してはならない。」
彼のこの信念こそが、その後、ヨーロッパやアメリカの民主主義を生むことになるのです。
リルバーンは政治的闘争においては敗れ、彼の思想は当時の人々に受け入れられることはありませんでした。
しかし、イギリスの政治思想家ジョン・ロックに受け継がれます。
やがて、それは人権思想、個人の自由を保障する「アメリカ合衆国憲法」となって結実します。
リルバーンが亡くなって120年後のことです。
民主主義、人権、自由、これらは自然に生まれたものではありません。
その獲得のために闘い続けた、多くの名も知れない人々がいたことを忘れてはいけないと思います。
モス先生のお手紙を読んで、先生は94歳の今も世界の平和について考え、そして、敬和に深い思いを寄せ、毎朝、私たちのために祈ってくださっておられることを知りました。
学園の創立者に、このような方を持てたことを私は誇りに思います。
今日の聖書です。
「人は、神にかたどって創造された」
私たち人間は、神によって創られ、「神の像」、「神の姿」が刻まれている存在です。
それが人間の尊厳の根拠です。
いかなる権力も、その尊厳を侵すことは許されません。
この精神にこそ、民主主義と個人の自由の根拠があります。
キリスト教学校とは、その信念に基づいて教育に取り組む学校です。
その恵みをおぼえて、共に歩む私たちでありたいと願います。
今朝の敬和