自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2024/05/20
【聖書:ヨハネによる福音書 12章 24節】
「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ。」
先週は定期テストと全校労作がありましたが、無事、取り組むことができたでしょうか。
今日から再び学校の日常が戻ります。
日常とは、私たちにとって水や空気、太陽からの光に似ています。
これらの一つでも失われれば、人間は生きて行けません。
にもかかわらず、それらはあって当たり前、お金を出さなくても、ただで手に入るものと考えがちです。
「日常」とは、それが失われて初めて、ありがたみが分るものと言えます。
人との関わりも同じです。
私は子供の頃、「親のありがたみは、親を亡くしてみて初めてわかるものだ」という言葉を聞いたことがあります。
当時は聞き流していましたが、実際に両親を亡くし、会えなくなって初めて、一緒にすごした幼い頃の時間が、かけがえのないものであったことが分るようになりました。
大切なものほど、失ってみて初めて、その意味に気が付くのが残念ながら人間のありようなのかもしれません。
さて、今日は「安全の日」です。災害や事故に対する意識を高めるための日です。
敬和では、第一定期テスト明けの月曜日を「安全の日」と定めています。
それには理由があります。
2,3年生の皆さんには、昨年も話しましたから、繰り返しになりますが、大切なことなので聞いてください。
1973年、今から51年前の5月26日、Kさんという男子生徒が事故で亡くなりました。
Kさんは1年生の男子寮生でした。入学して2か月足らずです。
この日は、第一定期テストが終わった日で、夕食後、何人かでグラウンドでサッカーをしていました。
Kさんのお母さんは、この日の午後、寮に電話をして、「試験も済んだし、土曜日だから、家に帰らないの」、と聞いたところ、Kさんは「帰らないよ、家に帰るよりも、寮にいた方が楽しいもん」と答えたそうです。
これが親子の最後の会話になりました。
Kさんはゴールキーパーをしていました。味方チームが相手方に攻め込んでいるとき、つい退屈になったのでしょうか。ゴールポスト(ハンドボール用ゴールポスト)に飛びつきました。
その瞬間を見ていた人はいませんでしたが、ゴールポストの下敷きとなって、仰向けに倒れているのが発見されました。
すぐに病院に救急車で運ばれましたが、2日後、母親の徹夜の看病にもかかわらず、亡くなりました。
この時、敬和学園は創立からまだ6年目です。
どれほど、学校全体が、深い悲しみに包まれたかは想像を絶します。
特に寮では、Kさんの死が知らされると、寮生全員が自発的にホールに集まり祈祷会(お祈りの会)を開いたといいます。
その時のことを太田俊雄校長は次のように記しています。
祈祷会に出席して、私が痛感したことの一つは、彼らの心の中に『生命の尊厳』に対する目覚めが体験されつつある、という実感であった。この体験は、K君が、自分の死を通して教えてくれた、最大の教訓ではなかろうか?
ある生徒はむせび泣きながら次のように祈った、「K君、われわれは与えられる一日、一日の命を大切に生きます。」
このように当時のことを記しています。
その後、敬和学園はこの事故を教訓に安全対策に取り組み、幸い、死亡事故や生徒に障害が残るような大きな事故は起きていません。
しかし、油断してはいけません。
全国に目を向けるとき、学校における事故は繰り返し起きているからです。
日本スポーツ振興センターが、全国の学校で起きた事故のデータを公表しています。
それによると2005年4月から2021年3月までの15年間に学校で起きた事故で亡くなった児童・生徒は1614名、障害を負った方は7115名です。
全国の小・中・高校までの合計ですが、その数字の大きさに驚きます。
毎年、100名以上の児童・生徒が学校の事故で亡くっていることになります。
サッカーのゴールポストでも2名が死亡、10名が障害を負いました。
学年別では中3と高1が多く、1年のうちでは5月が最も多いそうです。
専門家のお話しでは、5月には気温も上がり、熱中症的な要素も加わり、身体に負担をかける。
年齢的に中3,高1は成長期の変化が著しく、自律神経の調整が難しいことが考えられる、と言います。
このように全国では毎年、学校における事故で大勢の方が亡くなっています。そして、この5月がもっとも多いのです。
この方々の死は自殺ではありません。
全員が生きていたかった人たちです。
事故がなければ、今も生きているはずの人たちです。
15年間で1614名。その数の多さに圧倒されます。
私たちは、その数字一つひとつの背後にある、本人の無念さ、そして残されたご家族の計り知れない悲しみを忘れてはいけません。
さて、これからフェスティバル(学園祭)の準備が本格化します。
この期間は敬和でも事故の起きやすい時期です。
いのちを守るために、一人ひとりが自覚をもって行動してください。
決して無理をしないでください。
体調が悪いとき、また何か変だなと思ったら、絶対に無理をしないで休みをとるようにしてください。
いのちが一番、大事です。
今日の聖書です。
「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ。」
これはイエスが、ご自分の十字架の死を意識して、弟子たちに語った言葉として伝えられているものです。
イエスは、ご自身の死を通して、私たちに新しい命を授けてくださいました。
同じように、若くして亡くなった方々も、今、生きている私たち一人ひとりに、それぞれが与えられた命を大切にすることを教えてくれています。
私たちが、それぞれの人生において、豊かな実を結ぶためです。
その恵みをおぼえて、今日の一日、共に歩む者でありたいと願います。
今朝の敬和