お知らせ

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2022/09/12

今週の校長の話(2022.9.12)「人生の羅針盤」

校長 小田中 肇

 

【聖書:マタイによる福音書22章37~39節】

イエスはいわれた。「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。」これが最も重要な第一の掟である。第二も、これと同じように重要である。「隣人を自分のように愛しなさい。」

 

先日、元ソビエト連邦のゴルバチョフ大統領が亡くなったというニュースがありました。8月30日、91歳でモスクワの病院でお亡くなりになりました。

ソビエト連邦とは現在のロシアを中心とした社会主義国で、世界一広い面積をもつ国でした。

ウクライナもこのソビエト連邦の一部でした。

当時はアメリカを中心とする資本主義国家とソ連を中心とする社会主義国家に世界が分かれ対立していました。

 

冷戦(冷たい戦争)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

冷戦とは実際に武器をとって戦う「熱い戦争」ではなく、武器はとりませんが、互いに戦争状態にあることをいいます。

アメリカとソ連は、競い合うように核兵器を増強していました。

地球を何十回も破滅させることができるほど大量の核兵器を、両国は製造しました。

核戦争がいずれ起きるだろう、と誰もが考えました。

欧米では、いたるところに核シェルターが作られ、核戦争に備えました。

 

私も10代、20代の若いころ、世界はこの冷戦状態にありました。

近い将来、全面核戦争が起きて、人類は滅亡するだろう、と当時の若者の多くはまじめに考えていました。

そして、この冷戦状態を終結させたのが、先ほど紹介したゴルバチョフ元大統領なのです。

それによって世界は大きく変わりました。

まさに20世紀を代表する政治的指導者と言って過言ではありません。

 

冷戦の終結とともに「ベルリンの壁」崩壊という、びっくりするような出来事も起こりました。

1989年11月9日、それまでドイツを東と西に分断していた壁が、東ドイツの民衆によって壊された、という出来事です。

当時、東ドイツは独裁政権によって支配されるソ連と同じ社会主義国家でした。

ちょうど今の朝鮮半島が、北朝鮮と韓国とに分断され、対立しているような状態です。

その北朝鮮と韓国が突然、統一される状況を想像してみてください。

「ベルリンの壁」崩壊は、いかに驚くべき出来事であるかが分かると思います。

 

このニュースに世界中が息をのみました。私も、自分が生きているうちに、壁がなくなり、東西ドイツが統一されることなど決してないだろう、と思っていました。

ところがそれが現実に起こったのです。

しかも軍事力を全く用いることなく、民衆の力によって壁は壊されたのです。

今、思ってみてもそれは奇跡のような出来事です。

ソビエトを中心とする東側の独裁国家は、ベルリンの壁崩壊に触発されて、つぎつぎと解体して行きます。

ソビエト連邦自身も解体し、現在のウクライナがソ連から独立したのもこの時です。

 

西側世界の豊かな資本主義経済、自由と平等という民主主義に、東側の人々があこがれ、行動した結果でした。

勇気を奮って、行動した東ドイツの人々に、誰もが感動しました。

そして、人間とは、歴史を変えることのできる、大きな可能性を秘めた存在なのだ、と教えられました。

そして、何より人々は核戦争の脅威から解放されました。

これからは自由で平和な世界になる、と誰もが信じました。

 

そして、あれから32年がたちました。

しかし、今、世界は、32年前に予想したものとは全く違う状況にあります。

資本主義が世界を支配する唯一のシステムとなりました。

その結果、貧富の格差が広がり、核戦争こそありませんが、世界中で戦争やテロが起きています。

地球温暖化など環境問題も深刻です。

 

ベルリンの壁は崩壊しましたが、今、目に見えない壁が国と国の間に作られ、新たな分断の時代を迎えています。

この32年とはいったい何だったのか、これから私たちは何を目的に、どのように生きて行ったらよいのか、さまざまな問いが浮かんできます。

 

ところで、敬和学園では毎年、秋に先生方が新潟県内の教会の礼拝に、出席する、という取り組みを行っています。

先生方が教会を訪問し、敬和の近況報告に行っているのです。

私は2年前、上越市にある高田教会に行ってきました。

そのとき、あるご婦人が、お祈りの中で次のように祈られました。

「敬和学園に進学した娘たちは、敬和で人生の羅針盤(らしんばん)を与えられました。

ありがとうございます・・・」

この方の娘さん2人は、十数年前、寮生として敬和に入学されました。私はお母様の言葉を聞いて、大変、励まされました。

「羅針盤」とは、方角を示す磁石のことです。コンパスとも言われます。昔、人々は、星と羅針盤を頼りに、海を渡りました。

道に迷ったとき自分が進むべき方向を示すもの、お母様はそれを「人生の羅針盤」と呼びます。

それが敬和を卒業した娘たちの心の中に授けられた、そのように言われたのです。

 

今、私たちはコロナやウクライナの戦争など、見通しのきかない時代に生きています。

ベルリンの壁が崩壊した32年前、日本経済は絶好調でした。年々、生活が豊かになりました。

明るい未来が来る、だから今、苦労してもがんばろう、努力は必ず報われるのだから。そのような暗黙の了解が社会全体にありました。

 

32年たって状況は全く変わりました。今は、このように単純に未来を描ける時代ではありません。進む方向を誰も教えてくれません。

私たちは、人生の羅針盤を、自分自身の中に持たなければならない時代を生きているのです。

 

それは自分の生き方の軸、中心になるものと言えます。

敬和教育の中心にはキリスト教という軸があります。

建学の精神である「敬神愛人」は、今日の聖書箇所、「心を尽くしてあなたの神を愛し、隣人を自分のように愛しなさい。」という言葉に基づいています。

この御言葉が敬和の羅針盤です。

 

皆さんも敬和の生活の中で、日々、聖書の言葉に触れ、さまざまな出会いと学びをとおし、それぞれの人生を導く羅針盤を発見してください。

神様が一人ひとりに必ず備えてくださいます。

その恵みに感謝して今日も共に歩むものでありたいと願います。

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