お知らせ

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2022/09/05

今週の校長の話(2022.9.5)「希望の贈り物」

校長 小田中 肇

 

【聖書:マタイによる福音書 26章 52節】

そこで、イエスは言われた。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。」

 

新学期が始まり1週間がすぎました。

コロナも3年目となりましたが、猛威が日本中を襲っています。

今月末の修養会を実現するためにも、感染防止に努めて欲しいと思います。

 

さて、今日の聖書は、イエスが弟子のユダに裏切られて、ローマ当局に売り渡される場面です。

イエスが捕らえられたとき、一緒にいた者の一人が剣をぬき、打ちかかって、相手の片方の耳を切り落としてしまいます。

そのときイエスが言った言葉です。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。」

イエスはこの後、抵抗することなく捕らえられ、はずかしめを受け、十字架にかけられて亡くなります。

 

これはキリスト教の平和主義、絶対非戦論の根拠とされる言葉です。

どんなときにも剣をもって相手と争わないこと、攻撃されても相手に復讐するのではなく、相手のために祈り、神の裁きに全てをゆだねることを聖書は教えます。

 

ところで、ロシア軍によるウクライナ侵攻から半年がすぎました。

ウクライナで起きている現実を見る時、キリスト教のこの絶対平和主義は単なる言葉だけの理想論にすぎないのではないか、という疑問が私の心のなかに生まれました。

ウクライナはロシアに攻撃されるままに、反撃しないで無抵抗でいるべきなのか、という疑問です。

現在ウクライナは、アメリカを中心とするNATO加盟国から供与される最新兵器を用いてロシア軍に徹底抗戦で挑んでいます。

戦いは一進一退で長期化しています。

そして双方の犠牲者は増えるばかりです。

ウクライナの多くの町が見る影もなく破壊されました。

その悲惨な状況をみると、この戦いに果たして勝者はあるのか、という疑問が湧いてきます。

日本は過去に大きな戦争を起こし、その経験から、戦争の悲惨さとその無意味さを痛いほど学びました。

キリスト教的平和主義は単なる幻想にすぎないのでしょうか。

様々な考えが浮かんできて、迷ってしまいます。

 

それでも私は、迷いや疑問をもちながらも、聖書の教える絶対的平和主義に立ちたいと思います。

武器によってもたらされる平和は一時的なものです。

長い目で見る時、イエスが言うように、お互いが武器をおくことによってしか平和はもたらされません。

使徒パウロは言います。「悪によって悪に打ち勝つのではなく、善によって悪に打ち勝ちなさい。」

 

今まで人類は長い歴史のなかで数知れない戦争、災害、疫病を経験してきました。想像を超えるような大きな破滅も経験してきたはずです。

そのような経験を通りぬけた向こう側にある「未来の人間性」を、イエスは私たちに示してくれていると思います。

確かに今は実現できていません。しかし、人類がいつの日か実現するべき人間性です。

 

実際、今までにも、悲惨な状況のなかで、絶望することなく、希望をもって世界を支え続けた人たちがいます。

彼らの働きがこの世界に秩序と平和をもたらしてくれました。

そして、今もそのような名もなき多くの人々の働きが、世界を支え、守っているのです。

 

たとえば新型コロナの初期の段階では、世界で多くの医療従事者が命を落としたといいます。

彼らの働きを私たちは忘れてはいけません。

 

先日読んだ、レベッカ・ブラウンというアメリカ人小説家の「希望の贈り物」という作品を紹介します。

主人公はアメリカのUSCという団体で働く女性です。その仕事はエイズの人たちの世話することです。

エイズとはエイズウィルス感染症のことで30年ほど前に世界中で流行り、当時、治療法がなく、多くの方が亡くなりました。

主人公が仕事をしている組織に、彼女より年上のマーガレットという女性がいます。

とてもしっかりした働き手で、判断力もあり、頼りになる人です。

ところがこのマーガレット自身がエイズの症状をあらわして、引退しなければならなくなります。

そういうことになる直前に、主人公は、自分が担当していた患者が亡くなるというつらい体験をしていました。

そのため、このまま仕事を続けるか迷っていました。

 

彼女はマーガレットのさよならパーティーに出席します。

マーガレットは彼女に次のような質問をします。その部分を引用します。

 

マーガレットは椅子に深々と座り直して、「あなた、この仕事、永久に続ける気じゃないでしょ?」と言った。

「実は、辞めようかと思ってるんだよね」と私は言った。

「それがいいね」とマーガレットは、私が言い訳を並べる暇もなく言った。私のことをよくわかってくれているのだ。

「何か他のことをやるのもいいよね。またやりたくなったら、いつでも戻ってくればいいし」

突然、私たちにはもう時間がない、という気になった。「マーガレット」と私は言った、「あなたが病気になって、残念です。」

 

ところがその脇で、他の人とマーガレットの夫デイヴィッドが話しているのが主人公の耳に聞こえてきます。

 

「次の次の夏、上の子が小学校を卒業したら彼とマーガレットを連れてディズニーランドに行くんだ」と夫のデイヴィッドが言っていた。

「次の次の夏」と言ったのを聞いて、私の目がさっとデイヴィッドの方を向いた。ほんの一瞬だったけれどマーガレットは見逃さなかった。

あとどれくらい生きられるのだろう、と私が考えているのを彼女は見てとった。

私はマーガレットに謝りたかった。でも何も言えなかった。

マーガレットはまだ私を見るのをやめていなかった。

彼女は私の頬に片手を当てた。私は、彼女が私の顔に触れた手触りを思い出した。

彼女は言った。「もう一度、希望をもってちょうだい」

 

このようなお話しです。

最後のマーガレットの言葉「もう一度、希望をもってちょうだい」。これは、私たち一人ひとりに向けての言葉です。

私たちも、どんな時にも希望をもってこの世界に平和と秩序をもたらすために働く者でありたいと願います。

 

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