お知らせ

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2022/07/11

今週の校長の話(2022.7.11)「聖書と論語」

校長 小田中 肇

 

【聖書:マタイによる福音書 7章9~10節】

「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言である。」

 

今日の聖書の言葉はイエスの教えの中でも特に重要な教えとして伝えられているものです。

黄金律、Golden Rule とも呼ばれます。

自分が人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたも人にしなさい、という大変シンプル(=簡潔)な教えです。

 

たとえばあなたが知らない土地で道に迷い、誰か親切な人が道を教えてくれないかな、と思ったとします。

それならば、もし道に迷って困っている人を見かけた時、あなたも人に道を教えてあげることのできる人になりなさい、というのです。

決して難解な教えではありません。

しかし、これこそが律法と預言、つまり聖書全体の教えにも等しい、というのです。

ですから聖書を難しく考えることはありません。このことを実践できる人になること、聖書全体が私たちに求めているのは、このとてもシンプルなことだからです。

 

ところでこの教えと大変似た教えが中国の古典、「論語」のなかにあります。

「論語」という本について聞いたことのある人はあまりいないかもしれませんが、江戸時代の日本では広く読まれました。

寺子屋で、子供たちは論語を暗記させられたと言います。

論語は、今から2500年以上前に中国の孔子という賢者が弟子たちに語った言葉をまとめたものです。

江戸時代、特に重視され、日本人の道徳の骨格を作った古典と呼べるものです。

道徳という言葉自体、論語のなかの天の「徳」、人の「道」という言葉からから生まれました。

 

さて、この論語のなかに次のような言葉があります。

「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」

「自分が人にして欲しくないことは、人にしてはいけない」という意味です。

今日の聖書の言葉に似ていないでしょうか。

表現は違いますが、同じことを言っているように思います。

これは、子貢という弟子が孔子に、「一言でそれを守れば一生、間違わずに生きて行ける言葉はないでしょうか、」と質問したときの答えとして伝えられているものです。

孔子は答えます。「それは恕(じょ)という言葉だ。」恕とは、思いやりという意味です。

その後に続けて述べたのが、「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」という言葉でした。

 

ところで、聖書とこの論語の言葉との間には一つ大きな違いがあります。

聖書は、自分が人にして欲しいと思うことをあなたも人にしなさい、と言って積極的に行動することを求めます。

それに対して論語は、自分が人にして欲しいと思わないことは、人にしてはいけない、と言って行動を禁止します。

 

この両者の違いに私は興味を持ちました。

それで聖書の言葉を調べてみました。

するとこの言葉のすぐ前には、イエスの次のような有名な言葉があります。

 

「求めなさい、そうすれば与えられる。門をたたきなさい。そうすれば開かれる。誰でも、求める者は受け、探すものは見つけ、門をたたく者は開かれる。」

 

 

ここで、なぜイエスは、「求める者は与えられる、」と断言できるのでしょうか。それはそんなに簡単なことなのでしょうか。

 

そのことをイエスは次のように説明します。

どんな悪人でも、自分の子供がパンを欲しがっているのに、石を与えることはない。

まして、天におられる神様は、求める者に良い贈り物をくださるに違いないではないか。

だからあなたがたも、人にして欲しいと思うことは何でも人にしなさい。

 

つまりこの教えは、天の神様があなたがたを愛してくださっている、だからあなた方も、その愛に応えるような生き方をしなさい、という命令なのです。

先にあるのは神様の愛です。

その愛に応えて、あなたがたも、神様がそうであるように、人に対して愛のある行動をしなさい、と求めるのです。

ボランティア活動や様々な慈善事業がキリスト教から生まれたのは、このことと深く関係しています。

 

それに対して論語は「恕」(思いやり)ということを中心におきます。

恕という言葉には、相手の身になって思いやること、相手を赦すこと、などの意味があります。

人にして欲しくないことは、自分も人にしない、これは相手を思いやってのことです。

たしかに目に見える行動は何もしません。しかし、その人の心は働いています。

論語は相手を思いやる、この心の働きを大切にしているように思います。

 

聖書と論語の違いについてお話ししましたが、私はそのどちらが上でどちらが下とは考えません。

それぞれに大切なメッセージが込められていると思います。

むしろ、時代も地域も違うのに、それぞれの文化、宗教を超えて同じ教えが大切にされてきたことに大きな驚きをおぼえます。

ぜひ、皆さんには両方の言葉を大切に生きて欲しいと思います。

 

2,3年生は今日が定期テスト最終日です。

備えてきたものを力一杯発揮してください。

 

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