自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2021/05/24
ある日の夕食が終わる頃、ひとりの大望生が話し掛けてきた。「今日の食当ってどの館ですか?」洗い場を見ると、そこには大量に積み重なったおぼんと溢れ返っている食器の山がある。しかし、想定の範囲内である。今年度から寮生による食事当番(略して食当)が再開し、各館交代制で皿洗いを担当している。その中で、担当する館が変わる時にしばしば起こりうることがある。担当する寮生への伝え忘れにより、全く悪気なく抜けてしまうのである。それを想定していたので、私は動揺しない。当番表を確認しに行こうと立ち上がった瞬間、彼らが一言。その一言に私は動揺した。「俺たちでやろうぜ!」「おう、いいよ!」なんとその場にいた大望館3年S・K君とN・Y君、光風館3年E・T君とN・K君が洗い場へ入っていくではないか!その会話のやり取りから行動に移るまでわずか3秒。彼らには何の迷いもない。彼らの意識は高かった。面倒くさがる素振りもなく、率先して作業を進めている姿に感心するしかなかった。その光景を見ていた女子寮務教師は「あなたたち、凄いね!ありがとうね!」と労いつつ「今日の食当はめぐみ館です!早く来て〜!」と集め始めた。謝りつつ慌てて洗い場へ入ってくるめぐみ館の3年生。その女の子たちへ彼らが笑顔で一言。「そういう時もあるよね〜!俺たち、食当が楽しいから一緒にやろうよ!」そこまで言い切るとは、逞しく頼りになる姿に惚れ惚れする。彼らの笑顔と優しい言葉に、女の子たちは一瞬立ち止まった。顔を赤らめて、目はハートマークになり、心は撃ち抜かれた。私にはそう見えた。実際のところは知らないが……。おそらく、巷では彼らのことをイケメンと表現するのだろう。
しかし、これはたまたま彼ら4人がその場に居合わせたから起こった出来事である。食当している男子寮生に目を向ければ、イケメンは数え切れないほど存在する。ひたむきに自分の役割を全うしている姿、「今日学校でこんなことがあったんだよ」と口数と同じくらい皿を洗っている姿、「そうそう、こんなことやっていたなぁ」と記憶を辿りながら後輩へ作業の手順を教えている姿など、イケメンを上げれば切りがない。自分の身体を使い汗だくになっているが、表情は輝いている。おそらく、その作業の中に自分なりの楽しみを見出しているのだろう。これこそが敬和学園の労作精神と呼ばれる所以である。イケメンの彼らは今後も様々な場面で活躍する、そう信じずにいられない。その彼らの姿を見ながら食べるご飯は、格別に美味しかった。