のぞみ寮通信

のぞみ通信

2020/05/06

寮長日記 推薦図書「住野よる『君の膵臓をたべたい』」

2020年5月5日(火)  寮長  東 晴也


 この作品は明るく社交的なクラスの人気者の女子高校生「山内桜良」と、いつも一人で本ばかり読んでいる地味なクラスメイトの「僕」とのやりとりを中心に構成されています。
 私はこの作品を理解するポイントが3つあると思います。1つは「大切なものは中身」ということ。2つ目は「出会い」。3つ目は「生きるということ」です。
 今日は、この3つ目の「生きるということ」について、なるべくネタバレにならないようにしつつ、本の紹介したい。
 「僕」(以後、「 」は略)の死生観は、桜良との出会いを通して大きく変化して行きます。余命数年の桜良は、「死に直面して良かったことといえば、それだね。毎日、生きてるって思って生きるようになった」というのに対し、「普通に生きていて、生きるとか死ぬとか、そういうことを意識して生きている人なんて少ない」と僕は考えています。まるで逆。その約4ヶ月後、病状が悪化し入院中の桜良のお見舞いに行った僕が、「真実か挑戦」のゲームの中で、考えに考えた結果、桜良にこう質問する。
「君にとって、生きるっていうのは、どういうこと?」
 これ高校生の会話です!それに対して桜良は少し考えてから、真面目にこう応える。
「生きるってのはね、きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ。」
 この後、桜良の死生観がじっくり語られる。文庫版で8行分。ここは紹介したいのですが、紙面の関係で割愛。ぜひ読んでみて下さい。しばらくの沈黙の後、僕は
「この時彼女の言葉を聞きながら初めて、僕は僕の奥の奥、底に溜まった本当の想いを見つけ出した。……本当はずっと、求め続けてきた答えが、今そこにあった。」
 自分の中の奥の奥にある本当の思い……気づいてる人、生徒の皆さんの中にいますか?
 私にとってはここが作品の1つのクライマックスでした。これは敬和学園で言うところの立派な「自分探し」です。互いの関係の中で、人生をかけたような対話をし、問いをぶつけ、それに真正面から応答する姿は、小説の中とはいえ立派です。皆さんの中で、生きることに関して、本気のやりとりをした人がどれだけいるでしょうか?また、そのような友達がいるでしょうか?
 私達が「本当に大切なことにいかに出会うか」この作品の中にそのヒントが隠されているように思えてなりません。良かったらぜひ読んでみて下さい。感想は、寮本部の寮長まで。