自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2017/01/13
エッグカレー・コンソメスープ・牛乳・フルーツ白玉
今年から金曜日担当にしてもらった。
「だいたいメニューが曜日によって決まってくるので、時々変えてもらわないと、レポートの内容がマンネリになりますからね」と担当のY氏に言うと、
「先生のレポート、ランチについてほとんど何も書いてないから関係ないじゃないですか」と言われた。
そういう訳で、今日はランチについて真面目に書こう。
今日のランチはカレー。
敬和のカレーは名物と言っていい。どこのカレーよりうまい。
しかも今日のカレーは、ひきにくとウズラの卵のカレーだ。(関西の方からため息が聞こえてくるぞ)
俺は一番最初にランチホールに行った。
ウズラの卵が4個入っていた。
悪くない。
そう思って食っていると、英語科のSとOがやってきた。
ふと見ると、Sの皿にはウズラの卵が6つ、Oの皿には5つ入っていた。
俺の視線に気付いたSは、満面の笑みを浮かべながら、「先生、誤解しないでくださいよ。別に頼んだわけじゃないですから。普通に6つ入ってたんですから」と言い訳をする。
「馬鹿野郎!俺がウズラの卵ごときで羨ましがるとでも思ってんのか。馬鹿にすんな!」俺は図星を刺されてつい大声を上げる。
「あはは」と笑うSとO。勝者の余裕の笑いだ。
すると厨房から声がかかる。
「あれー!T先生、ウズラの卵何個入ってたんですか?」厨房には会話は聞こえていないはずだが、なぜかウズラの卵が原因でもめていることがお見通しなのだ。
「四つです」と俺は答える。
「ごめんなさいねー、先生、もうちょっとあげるからおいでよ」と厨房。
「はーい!」俺は椅子から飛び上がり、すっとんで行った。ウズラの卵を3個もらった。合計7つになった。Sに勝った!
テーブルに戻ると、SとOは冷ややかな視線を俺に向け、「先生、羨ましくないって言ってたじゃないですか」と軽蔑したように言う。
「いや、くれるって言うから、断るのも悪いかなと…」俺は言い訳をする。
ところへ、体育科のKがやってくる。俺が素早くチェックすると、ウズラの卵は4つしか入っていない。
Kは、「いやー、寒い体育館から来て、あったかいカレーを食べると身も心もあったまるなー」と言いながら、うまそうにカレーを頬張る。
Sが、今しがたのウズラの卵騒動をKに報告する。そして、「幸福というのは比較の問題かも知れませんね。人より多いと幸福になり、少ないと不幸になる。絶対的なもんじゃないんですよ。T先生は4つのウズラの卵で満足していたのに、わたしたちの6つと5つを見て不幸になった。考えさせられますねえ。」と偉そうなことを言う。
「俺は別に不幸になってないから!」俺がむっとして言う。
その時、テーブルの脇を、体育科のYがこそこそと通り過ぎようとしているのに気がついた。俺はピンときた。
「おい、Y、なにこそこそしてんだ。ここへ座れ!」と呼び止める。
Yは、悪戯を見咎められた悪童さながらに、「あ、見つかっちゃった」と言いながら、俺の前に座る。
やっぱり俺の勘は当たっていた。Yの皿にはウズラの卵がなんと、9個ものっている。Yはこれを見せたくなくて俺たちのテーブルを避けたのだ。
「ふざけんな!どんな汚い手口を使ったんだ!」俺は叫ぶ。
「いや、俺は何も言ってません。」しらを切るY。
「そんな訳ないだろう。白状しろ!」教師生活30年の俺が追求すると、
「すみません、目で懇願しました。」Yは観念して白状した。
「ウズラの卵を9個下さいってのは、どんな目つきなんだ。やってみろ!」俺の怒りは収まらない。
Yは、懇願の目つきをしてみせる。ガタイのいいラガーマンのKの懇願の眼差しは、はっきり言って気持ち悪かった。
そこへ、さっきから4個のうずらの卵で幸せそうにカレーを食っていたKが口を挟んでくる。
「なんだか、俺、さっきの幸福感が消えてゆくように感じるんですよ。やっぱり、幸福は比較の問題なんすかねえ。」
9個のうずらの卵を見た後、Kは4個で満足してた自分が哀れになったんだろう。
「幸福というのは人と比較する限り絶対に手に入らないものなんだよ、諸君。自分の持っているものに満足しなくちゃダメだ。」俺は自分のことを棚にあげて言う。
「そうかも知れませんね」とSが言う。
ランチテーブルは一つの幸福論に到達した。
するとKが突然「あっ!」と叫んだ。
どうしたんだ、と全員がKの方を見る。
「ウズラの卵がカレーの中にもぐってました!」
「おお!」と歓声を上げる俺たち。
「もう一個あった!ジャガイモの下に隠れてました!」Kは涙目になって喜んでいる。合計6つのウズラの卵となったわけだ。
「おめでとう!良かったな!」7個の俺は、心の底からKを祝福した。
(T.H)