月刊敬和新聞

2008年10月号より「労 作 -点と点をつないで線に それをさらに面に、そして立体に-」

小西二巳夫(校長)

3年生修養会
 今年度39回生(3年生)の学年修養会は画期的な企画のもとに行われました。3年生の修養会は出かけて行って、そこで人と人生、使命等に出会うことを基本としています。今回はそれを逆にして「受け入れてもらう側から迎える立場に」という形の修養会を行ったのです。具体的には福祉施設や障がい者小規模作業所の利用者の方をお迎えして「敬和秋祭り」を行いました。200名以上の方を迎えるまでの準備と当日のそれぞれの役割をしっかり果している様子から、そこに日頃の「労作」の積み上げを見たような気がしました。

「労作」授業
 敬和学園には「労作」という授業があります。3年間週1時間の必修です。3年生は選択授業でさらに週2時間とることもできます。労作の基本は体を動かすこと、そして他者のために働くことです。クラス単位で季節に合わせてお米や野菜を作ります。収穫したものが全校生徒の給食の食材として出されることがあります。溝そうじや木々の伐採そして冬には雪かきもあります。新聞「敬和」を三つ折にして封筒に入れ糊付けをすることや宛名のシールを貼ることも、新しい号が発行される毎に行います。そうした日常の労作の他に特別な労作があります。その一つが「入試労作」です。敬和学園の入学検査やオープンスクールの特徴は在校生がさまざまな場所で働くことにあります。駐車場への誘導、受付の補助、面接会場への案内など、その存在と働きは欠かすことができません。もし入試労作の生徒がいなければ入学検査を今のような形で行うことはできません。10月中旬には11月のオープンスクール、1月と2月の入学検査のための入試労作の募集を1,2年生に向けて行います。今回は30名の定員に80名以上が名乗りを上げてくれました。当日一般生徒は自宅学習日になりますが、寮生、通学生共にふだんより早く登校しなければなりません。

入試労作
 入試労作に求められるのはまず中学生とその保護者を迎えるにふさわしい服装をしきちんとした姿勢をもつことです。各部門の生徒責任者(チーフ)は厳しいチェックを行います。入試労作に求められるレベルは高く、緊張感の連続と神経をすりへらす一日といえます。夕方すべての役割を終えた時にはくたくたになります。そのたいへんな入試労作の「見返り」はたいしたものではありません。昼ごはんとしてお弁当が配られます。終了後の反省会で小さな箱に入ったケーキとクッキー、それに飲み物をもらいます。校長をはじめとする教師たちからの感謝の言葉がかけられます。一日の働きへの報酬はほとんどそれだけといっていいでしょう。 このように入試労作に対する見える形での見返りはわずかです。それでも休日を返上して働くことを申し出てくれる生徒が大勢いるのです。担当の教師がセレクションするのも困るほどの応募者があるのは、そこに一般的な見返りとは違う何かがあるからです。そして、それを生徒は敬和生活を通して感覚的にわかっているのです。敬和学園の生徒は目には見えない大切な価値観を労作などの学校生活を通して養っているのです。

与える前に与えられている
 生徒は入試労作をする以前に、自分の入学検査で労作を受ける体験をしているのです。緊張感でいっぱいになりながら面接会場に向かう時受検生に、労作生徒から「大丈夫ですよ」「ぼくも中学校ではいろいろありましたが、面接の先生はやさしいですよ」との一声が自然にかけられます。それによって落ち着いて面接に臨めたとの体験をもつ生徒は少なくありません。そこで入学できたら自分も入試労作を通して受検生を支えたいと考える生徒が多くいるのです。入試労作からわかることは、敬和学園の教育は入学をする前から始まっていることです。点(数)と点(数)をただ集めるのではなく、点と点を結んで線にし、それを面に、さらに立体にしていく、学校がそうした発想を持ってこそ、生徒は自らの才能を育み成長させることができるのではないでしょうか。