自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2023/05/22
【聖書:マタイによる福音書 12章 20~21節】
彼は傷ついた葦を折らず、くすぶる灯心を消さない。異邦人は彼の名に望みをかける。
先週は定期テストと全校労作がありました。
全校労作では小雨が降るなか、各学年、一生懸命、労作に励んだという報告を聞きました。
他者のために自分から働くことができるのは、さすが敬和生です。
ところで、チャペル前の掲示板の聖書の言葉が新しくなったことに気づいた人はいるでしょうか。
5月の連休に寮の小林渚先生に書いていただきました。
小林先生は書道の師範の資格をおもちです。
その文字からは力強さと精神性を感じさせてくれます。
その言葉が、今日の聖書箇所です。
「彼は傷ついた葦(あし)を折らず、くすぶる灯心を消さない。異邦人は彼の名に望みをかける。」
彼とは、イエス・キリストのことです。
葦とは、水辺に生える、ススキに似た多年草です。昔の人は、葦を編んですだれを作りました。
2年生は全校修養会で福島潟に行きましたが、水辺にたくさん生えている葦を見たと思います。
彼は傷ついた葦を折らず、くすぶる灯心を消さない。
くすぶる灯心とは、消えてしまいそうなともし火のことです。
傷ついた葦、消えてしまいそうなともし火、それは私たちのことです。
誰でも、傷ついて心が折れそうになったり、元気がなく、ともし火が消えそうなほど落ち込んだ経験があると思います。
そのような人々を救うためにイエスはこの世界にお生まれになった。
しかも決して、傷ついた人の心を折ることなく、消えそうなともし火を消すことがないように、優しく、その人に寄り添うというのです。
イエスはそのように歩み、人々の痛みや弱さ、罪を担(にな)い、最後は十字架にかかって亡くなります。
しかし、このイエスに異邦人は望みをかける。
異邦人とは、ユダヤ民族以外の人のことですが、ここでは全世界と言ってよいと思います。
つまり、このように生きたイエス・キリストに全世界の人々が望みをかける、と力強く宣言します。
私はこの聖書箇所は、聖書全体を要約するような大切な箇所だと思います。
皆さんも、ぜひ、掲示板を見てください。
さて、今日は「安全の日」で、7限には防災訓練が予定されています。
この5月の第一定期テスト明けの月曜日を敬和が「安全の日」と定めたのには理由があります。
1973年、今から50年前の5月26日、Kさんという生徒が事故で亡くなりました。
この事故を忘れないために、この日を「安全の日」と定め、毎年、防災訓練を行うことにしているのです。
Kさんは1年生の男子寮生でした。入学して2か月足らずです。
この日は、第一定期テストが終わった日で、夕食後、何人かでグラウンドでサッカーをしていました。
Kさんのお母さんは、この日の午後、電話をして、「試験も済んだし、土曜日だから、帰らないの」、と聞いたところ、Kさんは「帰らないよ、家に帰るよりも、寮にいた方が楽しいもん」と答えたそうです。
これが親子の最後の会話になりました。
Kさんはゴールキーパーをしていました。相手方に攻め込んでいるとき、つい退屈になったのでしょうか。
ゴールポストに飛びつきました。
その現場を見ていた人はいませんでしたが、下敷きとなって、仰向けに倒れているのが発見されました。
すぐに病院に救急車で運ばれましたが、2日後、母親の徹夜の看病もむなしく、亡くなりました。
この時、敬和学園は創立からまだ6年目です。
どれほど、学校全体が、深い悲しみに包まれたかは想像を絶します。
特に寮では、Kさんの死が知らされると、寮生全員が自発的にホールに集まり、祈祷会(お祈りの会)を開いたといいます。
その時のことを太田俊雄校長は次のように記しています。
祈祷会に出席して、私が痛感したことの一つは、彼らの心の中に『生命の尊厳』に対する目ざめが体験されつつある、という実感であった。
この体験は、K君が、自分の死を通して教えてくれた、最大の教訓ではなかろうか?
ある生徒はむせび泣きながら次のように祈った、「K君、われわれは、与えられる一日一日の命を大切に生きます。」
このように当時のことを記しています。
敬和学園はこの事故を教訓に安全対策に取り組み、幸い、その後、死亡事故や生徒に障害が残るような大きな事故は起きていません。
しかし、油断してはいけません。
全国に目を向けるとき、学校における事故は繰り返し起きているからです。
5月7日(日)に放送された、NHKスペシャル 調査報告「学校事故」の内容を紹介します。
2005年4月から2021年3月までの15年間に学校で起きた事故についての報告です。
亡くなった子ども1614名、障害を負った子ども7115名です。
全国の小・中・高校までの合計ですが、その数字の大きさに驚きます。
サッカーのゴールポストでも2名が死亡、10名が障害を負いました。
体育の授業中の心臓系突然死は506件です。
持久走、体力測定のシャトルランなどで亡くなっています。
中3と高1が多く、1年のうちでは5月が最も多いそうです。
専門家のお話しでは、5月には気温も上がり、熱中症的な要素も加わり、身体に負担をかける。
年齢的に中3,高1は成長期の変化が著しく、自律神経の調整が難しいことが考えられる、と言います。
運動会などの学校行事では84名が亡くなり、351名が障害を負いました。
番組で紹介されていた方は、小学生のとき、むかで競争で転倒し、後ろからきた人に踏まれてしまいました。
頚椎損傷のため、今も車いすの生活です。
部活動中の死亡事故は196件です。
内訳は心臓系突然死が133件と最も多く、熱中症が23件です。
このように全国では毎年、学校における事故で大勢の方が亡くなっています。
この方々の死は自殺ではありません。
生きて行きたかった人たちです。
事故がなければ、今も生きているはずの人たちです。
15年間で1614名。その数の多さに圧倒されます。
私たちは、その数字一つひとつの背後にある、本人の無念さ、そして残されたご家族の計り知れない悲しみを忘れてはいけません。
さて、学校ではこれからフェスティバルの準備が本格化します。
この期間が最も事故の起きやすい時期です。
いのちを守るために、一人ひとりが自覚をもって行動してください。
また、決して無理をしないでください。
体調が悪いとき、また何か変だなと思ったら、絶対に無理をしないで休みをとるようにしてください。
いのちが一番、大事だからです。
それでは、今日の安全の日、それぞれが命の大切さを胸に刻む時となることを願います。
今朝の敬和