お知らせ

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2022/12/12

今週の校長の話(2022.12.12)「人権・共生・平和」

【聖書:イザヤ書9章1節】

闇の中を歩む民は大いなる光を見、死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた。

 

アドベント3週目に入り、3本目のろうそくに火がともりました。

クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝うためのものですが、この寒い冬にイエス様がお生まれになったのは偶然ではありません。

一年で一番、夜が長く、暗い季節にお生まれになったのです。

今日の聖書には、「闇の中を歩む民は大いなる光を見、死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」とあります。

闇の中に輝く光として、神の子がこの世界にお生まれになったことの意味をあらためて考えてみたいと思います。

 

2週間前、敬和学園高校と敬和学園大学の合同の教職員研修が行われました。

毎年、高校と大学の連携について協議するために開かれています。

今年は高校のチャペルを会場に、大学の山田学長から、敬和学園の歴史、そしてこれからのビジョンを伺いました。

先生は私たちに、敬和学園がこれから歩むべき3つのビジョンを示されました。

① キリスト教の人間観、世界観にもとづく教育・研究の発展。

そのために「人権・共生・平和」というテーマを土台にすること。

② 地域との連携。高校、大学がそれぞれの地域でなくてはならない存在となること。

③ 高校・大学の連携の推進。「7年一貫教育」の実現。

 

これら3つのビジョンを示されました。

特に3番目の高大連携については、敬和学園ほど進んでいる学校はない、と言われました。

キリスト教学校(プロテスタント系)は全国に103法人ありますが、その中で、高校と大学の連携が敬和のようにうまくいっているところは他にないそうです。

普通は高校と大学はバラバラにやっているようなのです。

 

研修会の後、ある大学の先生は、これから「人権・共生・平和」を土台として、高校と大学でさらに連携を進めたい、と力強く言われました。

「人権・共生・平和」。これは、これからの敬和教育にとって大切な理念です。

そして、それをただの看板としてではなく、高校と大学が協力して、人の心に響く内容にしていかなければならないと思いました。

 

先日、千葉県からの学校見学がありましした。中3の娘さんを中心にご家族5人で来られました。

応接室にお通しすると、祖母の方が、「お久しぶりです」と挨拶されました。

その方は、私が28回生の担任をしたときの生徒の母親だったのです。

今回、見学に来られた中学生は、私が担任した生徒の妹の子供でした。

おばあさまは、孫の学校見学に同行されたのです。

おばあさまは、二人の娘を敬和に送ってくださり、そのうちの一人が、私が担任した生徒でした。

当時、おばあさまはご夫婦で新潟県内の教会の牧師をされていました。

見学が終わったとき、おばあさまが言われました。

「あの頃は、今と違ってSNSなどのない時代だった。

敬和に子供をやらなければ、世の中や社会のこと知ることができないと思った。

地元の公立高校や他の私立高校では、社会の本当のことを学べないと思った。だから、なんとしても子供を敬和に送りたかった。」

 

私は貴重なお話を聞くことができたと思いました。

もし、SNSの時代の今も敬和でしか学べないこと、社会を生きる上で他では学べないことを敬和学園が教えていれば、その教育を求めて全国から、いや、全世界から生徒は集まるだろう。

そのように思ったからです。

 

先週の水曜日、1年生は社会科特別授業がありました。

私も参観しました。そして、その内容の深さに、正直、驚きました。

講師はジャーナリストの佐藤和孝さん、世界各地の戦地を取材されている方です。

数日前までウクライナを取材するため、ポーランドに滞在されていました。

また、シリアで10年前に亡くなられたジャーナリスト山本美香さんのパートナーであった方です。

 

 

講演は生徒の質問に佐藤さんが答えるという形で進められました。

質問が出ないのでは、と社会科の先生方は心配したようですが、次々に手があがり続けました。

佐藤さんも大変、喜んでくださり、質問に熱心に答えてくださいました。

私も、敬和生はすごい、と思いました。

2,3年生にも、是非、知って欲しい内容なので、1年生の皆さんには繰り返しになりますが、先生のお話で印象に残ったことをいくつか紹介します。

 

昨年は戦場で80名以上のジャーナリストが亡くなった。

ジャーナリストは危険な職業だ。

山本美香さんが銃撃で亡くなったとき、自分と彼女は1メートルしか離れていなかった。

危険だが自分はこの仕事を続けなければならないと思った。

この仕事は絶対に必要だからだ。

圧制者、独裁者のしていることを世界に知らせることが戦場ジャーナリストの仕事だ。それは命を懸けて伝える価値がある。

ジャーナリストは、権力者を監視する役割を担っているからだ。それは、戦争の抑止力になっている。

 

ロシアとウクライナの戦争は、第3次世界大戦の扉を開いてしまった。

だから、この戦争は絶対に止めなければならない。

長年、戦場ジャーナリストをやってきて、今回、初めて一方の側(ウクライナ側)に立って報道する気になった。

この戦争が「独裁主義」と「民主主義・言論の自由」の闘いだからだ。

絶対に負けるわけには行かない。

 

悪いとわかっていながら、なぜ、人間は戦争を繰り返すのか。この謎は自分にも解けない。若い皆さんに託したい。

戦争に巻き込まれると人間は、「欲望と狂気」に取りつかれる。

戦争は人と人とが殺し合うことだからだ。

理性を失わないと人を殺すことなどできない。そして、そういう人間にならなければ生き残れない。

 

ジャーナリストとして、自分は、真実ではなく事実を伝えることを目標にしている。

正義や真実は、戦う両方の側にそれぞれあるからだ。

真実ではなく、事実を積み重ねて行くこと、それがジャーナリストの仕事だと思う。

 

他にも、先生はたくさんお話しされました。

そして、講演の最後に、山本美香さんが10代の人たちに送ったメッセージを紹介されました。

 

「平和な世界は、たゆまぬ努力をつづけなければ、あっという間に失われてしまいます。私たち大人は、平和な社会を維持し、できるだけ広げていけるように道をつくります。

そして、これから先、平和な国づくりを実行していくのは、いま十代のみんなです。

世界は戦争ばかり、と悲観している時間はありません。

この瞬間にもまたひとつ、またふたつ・・・大切な命がうばわれているかもしれない。目をつぶってそんなことを想像してみてください。

さあ、みんなの出番です。」(「戦争を取材するー子どもたちは何を体験したのか」山本美香、講談社)

 

私は佐藤さんのお話と、次々に質問する1年生を見ていて思いました。

今も敬和では、他の学校では学ぶことのできない大切な学びが行われている。

「人権・共生・平和」、生徒たちはそれを自分たちにとって重要なことと理解し、積極的に参加している。

私は、大変、励まされるひと時をすごすができました。

クリスマスを前に、まさに闇のなかに輝く光を感じさせる特別授業でした。

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