自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2022/02/07
校長 小田中 肇
【聖書:ルカによる福音書 12章 22-24節】
「命のことで何を食べようか、体のことで何を着ようかと思い悩むな。命は食べ物よりも大切であり、体は衣服より大切だ。烏(カラス)のことを考えてみなさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、納屋も倉も持たない。だが、神は烏を養ってくださる。あなたがたは烏よりどれほど価値があることか。」
2年生は先週、進路デイズがありました。その中に、「3年生のお話しを聞く」というプログラムがありました。
5名の3年生がそれぞれの進路をどのように決めたのかお話ししてくれました。5人ともよく準備してくれたよいお話しでした。
自分のやって良かったたことだけではなく、足りなかった部分、心残りに思うことまでていねいに話してくれました。聞いていた2年生にもそれぞれ印象に残った言葉があったはずです。
かれらは何よりも後輩のことを考えて、時間をかけてお話しを準備してくれたと思います。私は敬和生の素晴らしい面をまた一つ見ることができました。
今回お話しを聞いていて、あらためて考えさせられたことがあります。それは進路を決めるには自分が育った家庭環境など、自分では変えることの難しい現実とも向き合う必要がある、ということです。
家の事情や他の兄弟のことを考えて、それまで考えそのために準備してきた進路を変えた、というお話しが今回いくつかありました。
これは自分の努力だけではどうにもならない現実の壁と向き合うという経験です。本人にとってもまた親にとっても、苦しい経験だったと思います。
しかし具体的に進路を決めるためには、このように現実と向き合い、折り合いをつけなければならない時があります。
何人かの3年生は早い時期に親とよく話し合うことを勧めてくれました。壁を乗り越えるために、進路について親と話し合うことの大切さを実感したからです。
現実から逃げるのではなく、しっかりと向き合うことをとおして、私たちは、大人への一歩を踏み出します。そのことをあらためて教えられました。
このように人間には自分の力で変えられるものと、自分の力ではどうにも変えられないものの両方があります。
今日はラインホルド・ニーバーという人によるある有名なお祈りを紹介します。1950年頃、アメリカの教会で祈られたものとして伝えられているものです。
神さま、変えることのできるものについて、それを変える勇気を与えてください。
変えることのできないものについては、それを受け入れる冷静さを与えてください。
そして、変えることのできないものと変えることのできるものとを見分ける知恵を授けてください。
一日一日を生き、この時をつねに喜びをもって受け入れることができますように。
このようなお祈りです。私たちには自分の力で変えることのできないものがたくさんあります。
どの国に、いつの時代に生まれるか、どのような親や家庭環境のもとに生まれるか、男性として生まれるか、女性として生まれるか、これらは全て自分では変えられません。
自分の身長や容姿、様々な能力も親からの遺伝によるものが多いでしょう。また自分は悪くないのに、あるとき突然事故や災害、病気などに襲われることもあります。
これらを受け入れることができる冷静さを与えてくださいと、この祈りは願うのです。時としてそれを受け入れることは難しく、苦しいことかもしれません。
しかし前に進むためには、どうしてもその現実を受け入れなければならないときがあります。しかも自分の力だけではそれを受け入れられない、だから神様に祈り求めるのです。
次に変えることのできるものについては、それを変える勇気を与えてください、と祈ります。
昨年の秋、芸術鑑賞で心魂プロジェクトによるミュージカルを鑑賞したのを憶えているでしょうか。そのメンバーの一人、有永美奈子さんは次のような言葉を私たちに伝えてくれました。
「自分ができないと思っていることの8割は、自分がそう決めつけているからにすぎない、あきらめないでいろいろなことに挑戦してみて欲しい。」
有永さんは8割は自分の力で変えることのできるものだ、だから勇気を出して挑戦して欲しい、そのように私たちにエールを送ってくれました。
最後に、「変えることのできるものと変えることのできないものとを見分ける知恵を授けてください。」と祈ります。
私たちは自分の力で変えることができることを簡単にあきらめたりしていないでしょうか。
また逆に変えられないことを、その現実と向き合うことがいやで、無理やり自分の力だけで変えようとしていないでしょうか。
ですからこの両者を見分けるための知恵、それを祈り求めよう、というのです。
ではこのような知恵はどのようにしてもたらされるのでしょう。
今日の聖書は、イエスの言葉として伝えられているものです。前後を少し補います。
イエスは言います。「命のことで何を食べようか、体のことで何を着ようかと思い悩むな。命は食べ物よりも大切であり、体は衣服より大切だ。」
そして空を飛ぶ鳥や野に咲く花に目を向けるように勧めます。それらは人間のように思い悩んだり、苦労して働いたりしなくても、神様が養ってくださっているではないか。
だから思い悩むな、思い悩んだからといってあなたは自分の身長を少しでも伸ばすことができるか、と続けます。
そして、「天の神様はあなたに必要なことを全てご存じである。だから、ただ神の国をもとめなさい。」と命じます。
「ただ神の国を求めること、」これがイエスが私たちに示してくださった知恵のありかです。
それは自分に与えられた現実を感謝をもって受け入れ、愛と勇気をもってこの世界に踏み出すこと、神と人に仕える生き方へと歩みだすことです。
その恵みに感謝して、今日の一日をともに歩む者でありたいと願います。