毎日の礼拝

校長のお話

2021/02/09

「ラベリングという限界を自ら超える」(フィリピの信徒への手紙 2:3-4)

 アメリカのアニマルシェルターなどの保護施設にいる新しい飼い主募集中の犬たちは、犬種や推定年齢、性別などがインターネットや犬舎のラベルに基本情報として開示されています。しかし過去の研究では、保護施設にいる犬の犬種表示の七割以上が誤りであるという報告があります。これは保護施設に来る犬にはミックス犬が多く、表示のための犬種は施設の職員が「これはラブのミックスかな?」「チワワっぽいね」と目で見た感じと直感で決めているせいです。

 しかし犬種によっては偏見があったり人気がなかったりして、なかなか貰い手が見つからない場合があります。それは犬の生活の質はもちろん、命にも関わることにもなります。そこで、いくつかの保護施設では犬種の表示を廃止するという決定をしました。この決定がどの様な影響を及ぼしたのか、ニューヨーク大学の研究者がリサーチを行い、その結果が発表されました。

 

 データは犬種表示が廃止される前後の十六ヶ月間で比較されました。データ分析の結果は、犬種が表示されていた頃と比較して、表示廃止後はシェルターでの滞在期間が十一日短縮と大幅に減少したことが分かりました。一旦譲渡された犬が戻って来る率は表示中も表示廃止後も六%と変化はありませんでした。犬種表示を無くしたことで、イメージだけで敬遠していた人、直感で決められただけの犬種表示なのにその名が付いただけで住宅の条件に合わなかった人などが譲渡先の候補となったのも理由の一つと考えられます。

 この保護団体では犬種を表示しない代わりに、犬たちの行動を評価して四段階に分けて、その評価を色で表示することにしました。行動の評価は難易度の低い順に、緑、青、黄、赤で表示されました。緑の表示がされた犬は赤の犬に比べて、譲渡先が決まる確率が四・五倍高かったということです。

 この行動評価をするために、シェルターの職員は以前にも増して犬としっかりと向き合うことが求められます。しかし行動評価は定期的に行われるため、トレーニングなどを続けるうちに良い評価に変わっていくことができます。一度決められると変更されることのない犬種とは大きく違う点です。この点でも保護されている犬たちのチャンスが増え、譲渡率のアップにつながっていると考えられます。

 

 私はここから「犬種というラベルではなく個々の犬と向き合う大切さ」を学びました。そして気づくのです。犬の話ではなく人にも言える話だと。人種や所属はその人を作り上げているアイデンティティーの要素の一つではあります。しかし、人種や所属が同じだからといって個性は同じとは限りません。ラベリングをすることで固定観念にとらわれてしまっては残念です。目の前のその人出会い、理解する機会を失うからです。

 行動評価を色分けすることもラベリングの一種です。しかし、訓練や学習、体験などで評価は良い方向へと変わる可能性があるのです。教科の成績は重要です。テストも点数が低いよりたくさん得点できたほうが良いのです。敬和学園ではそれだけをもってその人を評価しません。ですから行事も大切にするのです。その取り組みの中で人や出来事と出会い、揺さぶられ、変わっていくのです。その変化を成長というのです。ラベリング、すなわち思い込みにとらわれていては自分の可能性を自分で閉ざすことになります。

 

 敬和学園の自慢は多様性です。一人ひとりの個性が輝く学び舎を目指しています。誰かと比べて競争するのではなく、お互いを尊重して認め合うところに価値があります。他人に注意を払うからこそその人らしさに気づきます。自分がへりくだった時に相手のよいところがひときわ理解できるのです。そのためには人や事柄にしっかり向き合うことが求められます。

 学年の仕上げの時になりました。三年生は旅立ちの時です。敬和学園での学びが生きる力となることを私は信じています。

 どんな時でも相手を自分よりも優れた者と尊敬し、めいめい自分のことだけでなく、相手に注意と敬意をはらい、愛と正義を実行する「敬和生」として歩んでほしいと願っています。