月刊敬和新聞

2020年1月号より「負ではなく正のスパイラルへ」

校長 中塚 詠子

休み明けの不調
 つい先日「正月病」という言葉を初めて聞きました。休み明けの仕事始めや新学期に向けて気持ちを切り替えようとするのに、「ああ、学校に行きたくない」「体がだるくて動けない」と感じる人もいることでしょう。新年の晴れやかなムードとは対照的に、気分が落ち込んでしまうのを「正月病」と呼ぶのだそうです。
 仕事始めの朝、しっかりと睡眠をとったにもかかわらず、体がずしりと重く、どうしても起き上がれず、はっきりした原因が分からないまま不調は一か月以上続き、メンタルクリニックを受診したというケースや、年末に家族で旅行をし、リフレッシュできたと思っていたのに、正月明けはいつも気持ちが沈んでしまうといったケースなどが紹介されていました。
 
季節や時期による不調
 年末年始に憂うつな気分になる「正月病」だけでなく、「五月病」「ブルーマンデー」「サザエさん症候群」など、季節や時期にあわせて心身の不調に名称を付けることは珍しくありません。しかしこれらはいずれも正式な病名ではありません。自己愛に満ちた空想にふける「中二病」、子どもが巣立った後に空虚感に襲われる「空の巣症候群」などは、ライフサイクルにあわせた気分の変化としてよく知られています。
 ある精神科医は、「正月病」は日照時間が短く、冷え込みが厳しい冬に起因する症状だと指摘します。動物が冬眠をするように、寒い季節になると、活動が鈍くなったり、こもりがちになったりするのは自然な反応だというのです。年末年始の暴飲暴食や生活リズムの乱れによる不調であれば、徐々に〝平常モード〟へ切り替わるはずです。毎年のように、「この時期になると決まって気分が優れない」というのであれば、それは、いわゆる「正月病」を疑ってみてもいいのかもしれません。

不調を好調にしていくために
 モヤモヤとした気分に悩まされる「正月病」に対処法はあるのでしょうか。専門医は次のような行動を勧めます。夜更かし、寝坊を避ける。日光に当たる。休暇明けの授業や行事をシミュレーションして備える。登校が楽しくなるような出来事をイメージする。一人で悩まず、誰かに相談する。敬和学園ではよく語られている言葉です。
 しかし、こう聞くと逆に落ち込んでしまう人もいるかもしれません。「布団にもぐってばかりで、日光を浴びませんでした」「学校生活のこれからを考えたら、楽しいイメージが描けませんでした」「相談できる人が誰もいません」…。「私、やっぱりダメですね」と自分を責めても、改善策にはなりません。「できなかった」「ダメだった」と悩み始めると、今度は「なぜダメなのか?」と理由を探そうとしてしまいます。当然です。過去のトラウマや性格的な弱さなどのささいな理由を見つけて、さらに不調につなげてしまい、どんどん調子が悪くなることもあります。負のスパイラルです。
 考えることは時に重要ですが、何もしないで考えてばかりいても現状を変えることはできません。「大事なのは、とりあえず何かしてみることです」と専門医は勧めています。元気のない時や燃え尽きてしまった人に「がんばれ」などと励ましてはいけないとは最近よく言われることです。けれど私は励まさないことと、何もしないで待つことと、関わりを持たずに放っておくことは違うと思うのです。
 
とりあえず何かしてみる
 とりあえず何かしてみると言われるとしっかり目標をもった内容のある格好のいいことを私は思い浮かべてしまいますが、そうでなくともいいのではないでしょうか。冬休み明け遅刻せずに服装を整えて初日の登校をするということだって大切な「とりあえず何かしてみる」ことの一つだと思うのです。それぞれの教科の課題を整えていくことや、ランチを残さず頂くことなど、当たり前のことを当たり前に過ごしていくことも易しそうで実は難しいことです。
 学年末の歩みが始まり、学年の仕上げへと学園生活は進みます。ルカによる福音書六章四六節以下では行動することがあなたの土台をつくるのだと教えてくれています。ぜひ、今与えられている環境でとりあえず何か行動してみてください。とりあえず何かへと背中を押されるような出来事がかならずあなたを待っています。誰かの行動があなたを刺激するでしょう。あなたからの刺激に促されて他の誰かが行動するかもしれません。
 こうしてできる「正のスパイラル」が正月病とは真反対の敬和の学園生活です。あなたは間違いなくこの学園生活を構成する大切な一人です。