月刊敬和新聞

2019年11月号より「学びを重ねて輝いていく」

校長 中塚 詠子

ねずみの運転学習実験

 アメリカ・バージニア州にあるリッチモンド大学の研究チームが、ねずみに車の運転を練習させ、学ぶことは幸せにつながるという研究成果を発表しました。この実験は小さなロボットカー製作キットを改造したミニカーで行われました。透明なプラスチック製の食品容器とアルミ板で「運転席」を取り付け、前方の左側、中央、右側にそれぞれ水平に銅線をはります。ねずみが運転席のアルミ板の「床」に乗り、銅線に触れると電気回路がつながって、ねずみの「選んだ」方向に車が動く仕組みです。
 実験は、縦150センチ、横60センチのプレキシガラス製の「運動場」内で数か月にわたり行われ、17匹のねずみが車の運転を学習しました。その結果、ねずみは車を前進させたり、左右に進行方向を変えたりといった複雑な操作を覚えることが可能だと確認できたということです。しかも、より自然に近づけた環境(豊かな環境)で飼育されているねずみたちは、研究室に閉じ込められたねずみよりもずっと運転がうまかったという実験結果でした。

新たな技能習得は幸せにつながる
 さらに研究チームは、運転訓練後にねずみの排せつ物を採取し、ストレスを感じたときに分泌されるホルモンや、抗ストレスホルモンの数値を測定しました。すると、訓練を受けたねずみ全てに抗ストレスホルモンの上昇がみられ、よりリラックスした状態にあることが分かりました。これは、新たな技能を習得したことの満足感に関係していると考えられます。人間で言えば「自己効力感」や「主体性」につながるということでしょう。
 また、遠隔操作されたミニカーに乗せられただけのねずみに比べて、自主的に運転したねずみの方が高い抗ストレスホルモン量が確認され、ストレス度合いが低いことも分かりました。

多様性の中で尊重される
 この実験からいくつかのことがはっきりします。豊かな環境で飼育されているねずみたちの運転が上手であったことは、多様性の中で学ぶことが学習効果を上げるポイントの一つだと考えられること。誰かがコントロールしたものに乗せられるより、自ら行動し、運転することが満足につながること。そして、たとえそれがやらされたことだったとしても、「学習」や「訓練」は抗ストレスホルモン量が上昇するということ。この実験はねずみですが、人間に置き換えてみるとずいぶんと可能性が拓けていくように私には思われます。
 敬和学園での学びは自主性が重んじられます。大学に合格するために、この部分を暗記するとか、よく出る問題だから反復練習をするとかといった授業はありません。制服についても、ソックスやカバンまで制定されているわけではありません。いつでもどこでも「なぜ」とか「誰にとって」とか「自分はどう考えるか」「他の人はどう感じるのか」「他の価値観」や「他の立場」、そして相手への尊敬や尊重を求める多様性に満ちた自主的な学びが求められています。

学園生活は学びの宝庫
 もし、敬和学園での生活を「やらされている」ととらえている人がいたならば私はそれをとても残念に思いますが、たとえやらされていることだとしても、訓練や練習によって獲得できるのは抗ストレスホルモンですからぜひ前向きにやらされてほしいと思います。
 学校には学びが満ちています。授業で新しい知識や考え方を得ることや他の意見を理解することだけでなく、部活動において新しい技術を反復練習によって獲得することや、先輩や後輩との距離感や接し方を学ぶこと、ランチをいただくことやお掃除を誠実に行うこと、各種委員としての自分の役割を果たすことなどすべては学びです。
 聖書では知恵を持ち、その知恵にふさわしい柔和な行いと生き方を示すことが勧められています(ヤコブの手紙 3章13節)。学びを深め、豊かな知恵を身に着けることがあなたの人生を幸せにすると聖書も語っています。多様性が自慢の敬和学園でぜひそのことを実践してください。学ぶことであなたはどんどん輝いてゆくことでしょう。