月刊敬和新聞

2019年10月号より「未来に向かって動いてみよう」

校長 中塚 詠子
 
100点か0点か
 ストレスを上手に処理できる人とできない人の違いのひとつは気持ちの切り替えの早さです。メンタルトレーナーによると一番ストレスを抱えやすい思考傾向は、白黒思考だそうです。物事についてうまくできたかダメだったか、白か黒かで考える人は、落ち込みからの立ち直りが遅い傾向にあるというのです。
 その理由はどんなにがんばっても100点はほとんどないからです。そして100点でなければ、自分はダメなんだと評価しがちになるのです。この考えを人とのコミュニケーションに置き換えてみてください。いかに辛いかわかります。
 たとえばよくありがちなこんな親子の会話です。子どもが「一人でシャツが着られたよ!」と報告したときに、親が「でもボタンがずれているよ」とダメ出しするような感じです。人間は褒められたい生き物です。まずできたことを褒めてほしいのです。その上で、次はさらにこうすれば良いと伝えられると、私たちは改善しようとやる気になります。勉強や仕事も同じで、毎日ダメ出しされ続けたら人はやる気をなくします。けれども自分自身に対しては同じことをやりがちなのです。自分に厳しくすればするほど成長する、厳しくしなければ甘えてしまうという思考パターンでは自分自身が心も体も疲れ切ってしまいます。
 最先端の心理学では「失敗はない、ただ経験があるだけ」という言い方をします。よかったことを続けて、ダメだったことを改善するのです。そうやって経験を仕分けして上手に振り返ることができる人が、気持ちを立て直しやすいのです。
 
過去の失敗、後悔から抜け出す
 私たちはいつも、頭で何かしら考えています。その考えていることを力に変えて今後のために使うのか、やってみるという行動に使うのか、ダメだったことへの後悔に使うのかで未来は変わります。ある精神科医が「他人と過去は変えられない、自分と未来は変えられる」と言いました。「終わったことは仕方がない」と受け入れることができる人は、気持ちが切り替えやすいということです。
 終わった過去に執着しても新しい未来はつくられません。これから起こる未来にどう繋げるかという未来志向、改善に思考が向かうとポジティブになります。反省は今後に生かせますが、後悔は前に進む力を削いでしまいます。ひとつの経験から良かったこと、ダメだったことを踏まえて、次にどうするかを整理し、未来に向けて行動するヒントが見つかると私たちは失敗した後悔から抜け出すことができます。
 
人に相談してみる
 一人で考えていると考えは堂々巡りすることがあります。そんなとき、他人の視点や発想をもらうと落ち込んだ感情から抜け出しやすくなります。気持ちを切り替えられないときは、誰かに話を聞いてもらったり、共感したその人の失敗体験を聞くだけで気が楽になったりするものです。一方向の物の捉え方、考え方から抜け出すためには、人に相談するということが有効です。ただ話すだけでも頭が整理され、気持ちが晴れていきます。
 
自分と相手の違いを理解する
 ストレスの八割は人間関係とも言われます。人間関係のすれ違いは、自分と相手とのズレが生じた時です。「なんであの人の言い方には思いやりがないんだろう」「どうしてあの人は細かいことばかりにこだわるんだろう」と批判しがちです。自分とは違うものの考え方、価値観、性格があるということに思いがいたらないからです。違いを尊重する、違いを認識して多様性を理解することが解決への近道です。
 話は極力手短に聞けたほうが快適な人もいれば、長くても論理的に正確に聞きたい人もいます。温かい感情のやりとりを楽しむ人もいれば、楽しさを重視する人もいます。自分と他人は違うのです。多様性を理解するだけでストレスはぐっと減少するはずです。
 これらのことは敬和学園では当たり前に語られることです。知っていることです。それでも変化がない、ストレスだけがたまると思っている人は、ぜひ、やってみようとしてください。できない理由を、やらない理由を一生懸命に探すのではなく、うまくできなくても行動してほしいのです。動けば自分の周りの景色が違って見えてくることでしょう。自分が動けば世界の見え方が変わります。豊かな神の世界が展開されていることに気付くかもしれません。神の招きに応えて一歩進んでみませんか?ストレスに振り回されるのではなく、その向こう側にある豊かで充実した幸せな学園生活を歩んでいきましょう。