月刊敬和新聞

2019年1月号より「集団がめざすもの」

校長 中塚 詠子
アリの集団生活
 アリの研究が進んでいます。アリの世界では多くの個体が役割分担をしながら整然と集団生活をしていると私は思い込んでいましたが、実際はお互いに監視し、役割に反する行動を取った裏切り者を厳しく罰する監視社会だそうです。
 アリの社会では女王アリがたくさんの働きアリを産みます。働きアリはすべてメスで卵巣は持っていますが、交尾を必要としない単為生殖という仕組みでオスを産むことができるものの、群れをコントロールする産卵を担当するのは女王アリだけです。働きアリの仕事は幼虫を育てたり餌を捕ったりする繁殖以外の仕事です。女王アリが発する特別な匂いによって働きアリの体が産卵できない状態に変わるのではないかと考えられています。

例外とその理由
 ところがこうした仕組みにも例外があり、産卵する働きアリもいるのです。働きアリ同士は互いに行動を監視していて、こうした掟破りの裏切り者を見つけると、集団で襲いかかって産卵を妨害したり、卵を奪って食べたり、破壊したりしてしまうというのです。
 ある大学の研究チームが実験でこの理由と仕組みに迫りました。実験は20グループのアリで行われました。卵巣を人工的に肥大させて卵を産める状態にした働きアリと働きアリが産んだ卵を巣に入れてどんな行動が起きるのかを観察しました。その結果、やはり産卵を阻止したり卵を破壊する行動が起きました。ところが興味深い結果が得られたのです。

集団の質が問われる
 働きアリの数が100匹未満で比較的若い集団の場合、ほとんどの卵が壊されてしまいましたが、200匹以上いる成熟した集団では卵が壊されたのは全体の約二割にとどまったというのです。
 若い集団では幼虫を育てたり餌を捕ることが重要です。働きアリが産むオスは交尾して幼虫を増やすことはできますが餌を捕るなどの労働力にはなりません。卵の破壊行動は集団全体としての力が弱くなることを防ぐためだと考えられます。
 一方、数が増えて成熟した集団は、世代交代して次の代の集団を築くことが必要となってきます。そのために次世代の女王アリと交尾して子孫を増やすオスが必要となるため卵の破壊はされないと考えられるのです。働きアリは自分が属する集団の大きさと歴史をきちんと理解した上で産卵の監視や破壊行動を行うようです。
 数だけでみると若くて小さい集団だと監視し合い破壊し合い、大きくて成熟した集団だと世代交代を踏まえて命をつなぐ工夫をしているということができます。

敬和学園という集団
 一概に人間に例えるわけにはいきませんが、私はこの話を読んだとき学校に似ているなあと思ったのです。「私が」「自分が」という自己主張だけでは学校生活は充実しません。仲間ができクラスでの取り組みが深まって達成感や充実感を得た人も多いでしょう。さらに修養会など学年での取り組みになればもっとお互いに刺激があり成長を実感することができたと思います。フェスティバルに代表される学校全体の取り組みで一人ひとりが輝いたと思う人が多いのも集団が成熟しているからこそなのだと考えることもできます。
 敬和学園も世代交代です。三年生の登校日も残すところわずかとなりました。三年生はいつも自分たちのことだけでなく学校全体のこと後輩たちのことを考えて、行動してくれました。後輩たちはその行いから喜びと慰めを学びました。そして元気づけられました。さらにクラスや学年、通生・寮生を超えて課題に向かえたと実感できるならば敬和学園は成熟した集団です。
 お互いのためになされた善い業を思い返しながら、またそこから学びながら、さらに深めていく仕上げの時です。監視や破壊、自己中心や妨害ではなく、それぞれの課題を誠実に果たしながらお互いを高めあい活かしあう学園の歩みを進めていきたいものです。