今日のランチ

今日のランチ

2018/08/31

今日のランチ(2018.8.31)

夏野菜カレー・チーズサラダ・コンソメスープ・牛乳・ヨーグルト

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 彼はただ1人、呆然と雨降るキャンプ場に立ち尽くしていた。脇には組み立てられたテント、その隣には雨よけの簡易な屋根が組まれ、その下には用意した食材が並べてある。全て完璧だった。ただ、他に誰もいないということを除いて。

元々、誰かと行動することにあまり興味はない。だから、ひっそりとソロキャンプを楽しんでいた。一人で全てを準備し、自分の時間軸で行動でき、誰にも文句を言われない。最高だ。

 「え、君キャンプやるの?面白そう!今度一緒にやろうよ」

どこからか噂を聞きつけた友人2人が目を輝かせてやって来て、そのまま押し通されてしまった。たまにはみんなでやるのもいいかな、そう思ったのだが、この連日の雨である。一人は予定が入ったと言って逃げ、もう一人はたった今、キャンセルの電話をしてきたのだった。

 雨は鉛色の空からざあざあ降り注ぐ。草木は濡れて美しく、ほのかに土の匂いがする。二人逃げたとはいえ、キャンプ場の料金は払い、食材は買ってしまった。料理して、ソロキャンプするしかない。彼は慣れた手つきで湿気に強いマッチで火を起こし、あらかじめカットして下ゆでした野菜を用いて料理を始めた。夏野菜カレー。キャンプのカレーは最高だ。今年の夏をたっぷりと詰め込んだ極上の一品を、彼らにも味わって欲しかったけど仕方ない。夏を独り占めさせてもらおう。チーズを入れたサラダは洋風の味付け。まろやかなコクがある。もちろん、少量の湯を沸かしてスープも作っている。作業のうち、楽しくなってきた。彼にとってキャンプは自然との交響であり、他者を必要としていない。情報とコミュニケーション過多の時代の中で、黙って自然に耳を澄ますことは、大切な時間だった。スパイシーなカレーを口に運び、飯ごうにこびりついたご飯のお焦げを装っていると思わず鼻歌が漏れた。そのことに彼は気づかない。最後にコーヒーを飲む。いつの間にか雨は上がり、夜は更け、天上には星が瞬いている。テントで『潮騒』でも読もうか。思案する彼の瞳は焚き火に照らされ輝いていた。夏が、終わろうとしている。

(M.M