月刊敬和新聞

2018年7月号より「その人らしく成長する」

校長 中塚 詠子
一見ぱっとしない中学生
 女子中高に三年前まで勤めていました。英語教育で有名な学校で創立以来約130年間アメリカ人女性宣教師が派遣されていました。そうしたいきさつもあり英語を勉強したいと希望する生徒が多い学校でした。
 Mさんはそんな希望を持って中学校受験を経て入学してきました。しかし、成績は芳しくなく学年全体の下位3分の1ほどでした。英語を得意とする生徒は中学生のうちに英検3級を取得していましたがMさんは中学時代に3級を取ることはできませんでした。高校には英語コースがありました。内部推薦の基準を満たせずMさんはチャレンジ受験をすることになりました。チャレンジ受験とは外部生徒と同じ条件で高校入試に挑むその学校の仕組みです。とても熱心に受験勉強に取り組みましたが、3点足りずにMさんは英語コース不合格になりました。

目立たない高校生
 Mさんは標準コースの高校生になりました。英語コースに入れなかったことにふてくされずに高校生活をスタートさせました。私はそれだけでもう十分な気がしていました。しばらくMさんのことは教員間でも話題になりませんでした。特別なこともなく、問題もなく、欠席もなく、話題にもあがらない、おとなしい目立たない静かな生徒だったからです。高校一年が終わるころに、受験は残念だったけれどふてくされずにまじめによくやっているという話は聞いていました。
 翌年、二年生の秋に驚きの知らせを聞きました。Mさんが英検2級に合格したというのです。英語の先生からとても地道に勉強を続けていたことを教えてもらいました。高校一年になってすぐの英検で3級に合格し、その年の最後の英検で準2級にチャレンジしていたというのです。これだけの結果を出している生徒なのだから他のこともきっと連動しているに違いないと思いました。案の定一年の最後あたりから成績がぐんぐん伸びていました。
 Mさんは三年生になりました。英語をしっかりやりたいとK女学院の指定校推薦を希望しました。ところがやはりライバルがいてほんの少しの差で選ばれませんでした。どうしてもK女学院で英語を勉強したいという強い意志で第三希望までK女学院一本の志望でした。校内面接でもその強い意志が伝わり、最後の一人の推薦生徒としてMさんが決まりました。

できない自分を素直に認める
 ここで話は終わらないのです。推薦が決まってからもほんの少しの空き時間があれば、英語のテキストを開きノートに書き込んで勉強をするMさんの姿があちこちで見られるようになりました。朝の礼拝の時少し早く来て勉強する、委員会の時みんなが揃うまでの時間を使って勉強するといった姿です。誰も見ていなくても誰も褒めてくれなくても必要な努力をこつこつ積み重ねていくMさんの姿に私は感動しました。
 Mさんはたくさんの挫折を経験しました。希望コースで内部進学できなかったこと、チャレンジ受験でも点数が足りなかったこと、何度も英検に落ちたこと、第一希望の指定校推薦に選ばれなかったこと…。でもMさんはその都度自分に何が足りなかったかを確かめ課題を明確にしていました。できない自分や足りない自分を受け入れ、あと3点という小さな目標をしっかりクリアし続けました。

成長の形は一人ひとり違う
 中学一年の時、明らかに下位だった成績は高校三年生の夏休み前には特進コースと英語コースを合わせても学年の上位一割に入る成績になっていました。この成績は毎日の積み重ねの現れなのだと思いました。長い自宅学習が明け、卒業式前日にも友だちと待ち合わせをしている時間に勉強しているMさんでした。
 成績が良くなったからMさんが素晴らしいのではありません。自分で決めたことを自分のペースでやり続けたことが素晴らしいのです。私がMさんの変化に気づいたのは高校二年生の驚きの英検2級合格がきっかけでした。それまで気づきませんでした。逆に言うとMさんの成長にはゆっくりとした時間の流れとじっくり取り組むペースが必要だったのです。人にはそれぞれふさわしいやり方や時間の流れがあるのです。
 それを学校で見つけてほしいと思います。そこに寄り添う学園でありたいと願います。