今日のランチ

今日のランチ

2018/06/21

今日のランチ(2018.6.21)

ごはん(しそ味ひじき)・サバ西京焼・切り昆布煮・豚汁・牛乳・ロールケーキ

 0621

 

 新幹線の車窓に映る風景をぼんやりと眺めていた。

 上京して7年。東京の大学に進学しそのまま就職。夢を追いかけた都会での生活に後悔はない。この電子とコンクリートの世界で私は生きていく。

 唯一気がかりなのは田舎に残した老いた両親。何かと米や野菜を送ってくれるのだが、忙しさから顔を出せない。

 しかし、父が病気をした。風邪をこじらせて肺炎。生来頑丈なため回復は早かったが、思い切って様子を見にいくことにした。

 

 駅を出ると、父が車で迎えにきていた。無理しなくてもいいのに。そう言うと、父はニヤッと笑って車に乗り込んだ。いつも口数は少ない。昔ながらの職人気質なのだ。あの夜、上京の決意を伝えた時も、父は静かに「やりたいことを、やれ」と言っただけだった。

 

 家に着くと、母が食事の支度をしていた。

 「あんたの好きな西京焼きだよ」

 いつも帰った時はこれを頼んでいた。地元の鯖の旨さ。東京では決して味わうことができない。また焼き加減も絶妙だ。多くの家で肉じゃががそうであるように、私にとってのかけがえのない家庭の味なのだ。何か隠し味があるらしいけれど、まだそれは教えてもらっていない。嫁ぐときに、とのことだけれど、それは当分先になるかもしれない。

「このロールケーキどうしたの」

「お隣さんの旅行のお土産よ」

 何気ない会話が流れている。父も豚汁をすすり、黙々と食べている。

 

 地元の自然は美しく、会話は暖かい。時間の流れも穏やかだ。しかし、三日後には私は東京に帰るだろう。そして老いていく二人を気にしながらも、忙しい時の流れに飲み込まれていくだろう。そんな私に両親はきっと米を送り続け、応援してくれるのだろう。私は親不孝なのかもしれない。しかし夢をまだ追っていたい。まだやり尽くしていない。人は2つを同時に追うことはできない。私は夢を選んだ。それが正しい選択かはまだ分からない。きっとこの先も、葛藤を抱えながら生きていく。

 

 母は楽しそうに話し続ける。父は新聞を読み始めた。こんな時間がもっと続けばいい。窓の外を夜の闇が押し寄せ、優しい虫の音が、静かに響いていた。

(M.M)