月刊敬和新聞

2018年1月号より「シェアの精神が平和を築く」

校長 小西 二巳夫

ようこそ〇〇へ
 ウーマンラッシュアワーという漫才コンビがいます。村本大輔と中川パラダイスの二人組です。村本さんは昨年嫌いな芸人ランキングの№1になりました。理由は村本さんの個性の強さにあるようです。持ちネタも個性的です。その一つに「ようこそ○○へ」があります。暮れのテレビ番組でそれが披露されていました。ネタは村本さんの出身の福井県の話題から始まりました。「福井県には何がある。原発がある。福井県大飯町には大飯原発がある。隣りの高浜町には高浜原発がある。隣りの美浜町には美浜原発がある。隣りの敦賀市にはもんじゅがある。ちいさな地域に原発がたくさんある。しかし大飯町は夜七時になると真っ暗になる。電気はどこへ行く…」。こういう展開で地震のあった地域、東京オリンピックそして沖縄の米軍基地問題が取り上げられます。「ようこそ○○へ」に共通しているのは、関心を持つことの大切さです。それが痛みや悲しみを分け合うことに、喜びや楽しみを分かち合うことにつながるのです。

ロマのお姉さんにびっくり
 たかのてるこさんというエッセイストの作品に「ジプシーにようこそ!旅バカOL、会社卒業を決めた旅」があります。たかのさんは個性の強い人のようです。でもその個性が悩みの種でした。そこで自分の個性をなるべく目立たないようにしよう、時には直そうとがんばります。けれどうまくいかず、そこでそこから逃げ出すように旅に出たのです。そしてある人たちとの出会いを通して「直そうと思っても直せないものが、自分の個性なのだ。だったら伸ばすしかない」と気づきました。それが東ヨーロッパ、ルーマニアでのロマと呼ばれる人たちとの出会いでした。ロマはかつてジプシーと呼ばれていました。ヨーロッパで数百年、数千年にわたって住む地を追われ、差別され、迫害され続けてきた人たちです。ナチス・ドイツ時代に、ユダヤ人らと一緒に大勢の人たちが殺害されました。たかのさんがルーマニアの旅でロマの村を訪れた時のことです。手招きをしてくれたお姉さんにお菓子の詰め合わせを渡すと、姉さんは包み紙をビリビリ破り、集まってきた子どもたちにお菓子を配り始めたというのです。たかのさんは「わあっ、この場で分けてしまうの」とびっくりしました。でもお姉さんの当たり前のような態度に、ある者がない者に分けるのは当然だとあらためて気づかされたというのです。そこにあったのは、やはり悲しみや痛みを分け合う精神、そして喜びと楽しみを分け合う精神でした。

5000人に食べ物を与える
 新約聖書に「5000人に食べ物を与える」という話があります。イエスの話を聴こうと大勢の人たちが集まってきていました。その人たちのほとんどは、しんどさを抱えながら生きてきた人たちでした。話が終わっても人々は立ち去ろうとしません。弟子たちはこのままついてこられたのでは責任が持てないと考え、イエスに人々を解散させてほしいと申し出ました。ところが、イエスは弟子たちに何とかしなさいといったのです。弟子たちは思ったでしょう。できれば自分たちもそうしたい、けれどこれだけ大勢の人たちを食べさせる食料もなければ、それを買うお金もない。この話の結論は推定で15,000人以上の人が満腹したということです。いわゆる奇跡が起こったのです。奇跡は何か不思議な現象が起こることです。イエスの話を聴くためについてきた人たちが何も持たずについてきたとは考えられません。むしろ遅くなることを考えて多少の食べ物を持ってきた人もいたはずです。その彼らが、イエスとの出会いによって、自分の持っているものを、そこにいる人たちと分けあうことにした、シェアしようとした、としても何の不思議もありません。イエスとの出会いから自分のものを独り占めするより、シェアをした方がはるかに豊かになれる、幸せになれると考えられるようになっていたからです。

シェアの精神が平和を築く
 今この時代に平和を求める私たちに、逆に求められることがあります。それは戦争がいやだと考えるなら、豊かさを独り占めするのではなく、悲しみや痛み、そして喜びや楽しみを、違う立場の人とシェアをする生き方を強めていくことです。「5000人に食べ物を与える」の話を通して、神は私たちにそれを求めておられるのです。その求めにしっかり応える自分でありたいと願いつつ2018年に取り組んでいく、それを何より願います。