自分探しの敬和学園で 人を、自分を、好きになる。
2017/12/08
麻婆丼・春雨サラダ・ワカメスープ・牛乳・マンゴープリン
1989年、バブル経済に恐れをなした俺は、会社を辞め、巻町角田浜の古い農家を月1万円で借りた。
まるで、「トトロの家」のようだった。
ここで、敬和に勤め始めるまでの一年間を、無職で過ごした。
七部屋もある大きな家で、敷地が300坪以上あり、妻は畑を作った。近所のおばあさんから、味噌の作り方を習って、手前味噌を作った。
俺は当時三歳だった長女と毎日海を散歩した。
海へ向かう坂道を振り返ると、角田山が大きくそびえていた。
高校、大学、就職と走ってきた世間並みのレールから降りてみると、不思議なことがたくさん起こった。
仙人のような石売りと知り合いになった。
野積に住む、彫刻家や、その仲間の得体の知れないヒトビトとも仲良くなった。
歩いて日本一周している変な外人が転がり込んできたりもした。
尻尾の曲がった変な猫がやってきて、住み着いた。
この猫は間抜けな奴で、ある日タンスから落ちて死んでしまった。
なんだ、そんなに頑張らなくても生きていけるじゃないか、と思った。
何しろ家賃が一万円だからな。
古い農家だったので、寒かった。
朝目が覚めると、妻の頭に隙間から吹き込んだ雪が積もっていたこともあった。
住み始めて一ヶ月経った頃、風呂に入っていたら、すーっと何かがいなくなるような気がした。
それまで、家の中に何か別のものが住んでいるような緊張感があった。
風呂から出て、妻に、「いなくなったね」と言ったら、
妻は「うん」と言った。
「となりのトトロ」を見て、あれはさては、「まっくろくろすけ」だったのかと分かった。
妻は今でも、角田浜で暮らした三年間が、人生で一番楽しかったと言っている。
角田浜の家は寒かったなと、暖かいランチホールの窓から見える雪を見て思い出した。
(T.H)