月刊敬和新聞

2017年8月号より「敬和学園に流れる時間と心」

校長 小西二巳夫

クロノスとカイロス
 敬和学園には「流れているもの」がいくつかあります。その一つが時間です。学校は決められた時間で一日が流れていきます。授業時間も給食の時間も決められています。年間計画は前年度の終わりには決定しています。そういう時計が正確に時を刻んでいく時間のことをクロノスといいます。クロノスでは同じ時間内にたくさんできる人、早くできる人、間違わずにできる人が優秀とほめられます。ゆっくりの人、じっくりの人は早くしなさいとせき立てられます。間違いをしたり失敗したりするとダメな人といわれがちです。でも時間にはもう一つ別の流れがあります。それはその人だけに与えられた時間です。これをカイロスと呼びます。カイロスの一つに出会いがあります。敬和学園はカイロスを大切に考えています。学校生活の中でじっくり考えることや失敗を大切にします。お互いの速さを比べることもしません。みんながみんな同じように早いスピードでする必要はないはずです。敬和学園で人生を変える人や出来事に出会うことが多いのは、その人だけが持つ時間のカイロスが大切にされているからです。

心が流れる=愛される、大切にされる
 敬和学園にはさらに「心」が流れているといわれます。あまり聞かない表現ですが、心が流れるとは愛するということです。大切にされることです。敬和学園の生徒がいつも周りからかけられる言葉があります。「自分を大切にしなさい」です。自分を大切にしない人などいないと思いがちです。でも私たちにとって一番わからないのが自分自身です。だから何をしたらいいのか、自分をどうしたらいいのかわからずに悩むのです。そして自信が持てず、自分をダメな人間だと決めつけたりするのです。敬和学園はその人の強さも弱さもすべて丸ごと受けとめることから、学校生活を始めます。自分が周りから大切にされていると感じた時、本当の意味で自分を大切にできるようになるのです。自分が好きといえるようになったら最高です。

一人になる時間が大切
 自分の部屋から学校まで数十歩で着く寮生とスクールバスで到着する通学生の一日はチャペルでの全校礼拝から始まります。毎朝の礼拝は一人になる時間です。
敬和学園は一人で過ごす時間を大切にしています。それは一人になると物事を深く考えることができるようになるからです。一人になって、その日をどのように過ごすのか、どのような生き方をするのかをじっくり考えるのです。授業で大切にしているのは、できること、わかることの喜びです。できないこと、わからないことをダメと叱られる授業、時間が楽しいはずがありません。ある卒業生がいいました。「敬和に来て初めて、いいね、よくやっているねと、小さなことでほめられた。その時から真剣に勉強したいと思うようになった」。敬和学園の授業の形態は個人選択制になっています。自分だけのカリキュラム、時間割を決めるためです。そこには自分に与えられた時間を大切にするとの目的があります。

根拠のない自信
 毎年敬和学園からたくさん進学する大学のある先生が敬和学園の生徒について次のような話をして下さいました。「入学試験の面接で、受験生に自己アピールをしてもらいます。すると敬和学園の生徒たちは、長所の他に短所も一緒に話すのです。これは他校からの受験生には見られないことです。思わず笑ってしまいますが、このことは敬和学園の生徒が短所も含めて、ありのままの自分を受けとめてもらっていることの表れだと思います。それに敬和学園の生徒に共通するのは、強い自己肯定感をもっていることです。ニーチェという哲学者が『最初に自分を尊ぶことから始めよう。まだ何もしていない自分を、まだ実績のない自分を、人として尊敬するのだ』といいました。この言葉のように、まだ何も始めていない自分を肯定する気持ち、根拠のない自信が養われていることを敬和学園の生徒から感じ取ることができます。それは自分の存在が、受け入れられ、肯定され、必要とされていることを伝えられながら、学校生活を送っているからでしょう」。敬和学園の教育と生徒への最高のほめ言葉です。感謝!