月刊敬和新聞

2017年1月号より「『働かない働きアリの大きな働き』から学ぶことがあります」

校長 小西二巳夫

「働かないアリに意義がある」という本
 「働かないアリに意義がある」という本があります。著者は動物生態学者の長谷川英祐です。長谷川さんによると、すべての働きアリがよく働くわけではありません。どの瞬間を切り取っても変わりません。働いているのは30%で、他の70%は何もしていません。さらに20%のアリが2ヶ月近くも何もしないで過ごすそうです。この実態に関心を持った長谷川さんは働かない働きアリがなぜ存在しているのかを調べることにしました。その結果をまとめてエッセイ風に書いたのが「働かないアリに意義がある」です。

「働かない働きアリの大きな働き」とは何か
 この調査から私たち人間社会が学ばなければならないことが明らかになります。働かないアリは働くアリより能力が劣っているわけでもなく、サボっているわけでもありません。その違いは人に例えるなら、腰が軽いか重いか程度だそうです。アリの巣は湿った土の中や腐った木の根元に作られます。放っておくとすぐに卵にカビが付き、30分から1時間で卵は死んでしまいます。それを防ぐために働きアリは常に卵を絶え間なくなめて回っているのです。もし働きアリが疲れて動けなくなると卵が全滅します。アリ社会が危機にさらされるわけです。その時、働かないアリが疲れて動けなくなった働きアリに代わって働き始めるのです。ムダな存在と思われていた働かないアリが卵を救い働きアリを救い、そしてアリの社会全体を救う大切な存在、救世主であることが明らかになりました。

救世主誕生のいきさつ
 聖書にはイエス・キリストの誕生のいきさつが書かれています。いわゆるクリスマスですから、うれしい話やおめでたい話が書かれていると思われがちです。しかしそこには歓迎されない話ばかりが載っています。当事者のマリアは天使から神の子を産むことになると告げられて困りました。彼女の願う幸せは婚約者のヨセフとささやかな家庭を築くことでした。ヨセフは結婚前のマリアに子どもができると知って頭を抱え込んだでしょう。大きなおなかを抱えたマリアとヨセフから泊めてほしいと言われた宿屋の主人は大迷惑だったでしょう。もし泊まっている間に子どもが生まれたら、当時の決まりでその宿屋は一定期間営業できなくなるからです。イエス・キリストの誕生を知ったヘロデ王は自分の地位が脅かされると、二歳以下の男の子をすべて殺すように命じました。虐殺が起こったのです。男の子を殺された親はイエス・キリストの誕生のとばっちりを受けて悲しみと痛みを背負うことになりました。虐殺を免れるために多くの親子がエジプトに逃げました。難民にされてしまったのです。このようにイエス・キリストの誕生のいきさつのどこを切り取っても、素直におめでとうとは言い難いのです。いったい赤ん坊のどこに人を救い、社会を救う力があるのでしょう。赤ん坊とは働かない人間の代表です。それにもかかわらず、聖書は赤ん坊には人を助ける力があり、世界を救う救世主と考えているのです。

敬和学園は聖書の考える救いに応える学校でありたい
 アリの社会には働かないアリや腰の重いアリなどがはじかれることなく当たり前に存在できています。多くの働きアリが働かないアリの存在の大切さを理解して自分たちの中心に置いているのです。それはアリの社会が出した進化の答えです。聖書は私たちに本当の進化を求めているのです。働かない存在とは働く機会がないだけなのです。その機会が奪われているだけなのかもしれません。それをどのようにしたら働けるようになるのか、取り戻すことができるのか、学校が果す役割はそこにあります。学校は、何々ができないから、何々が劣っているからと一人ひとりを選別し周辺に追いやり、輝きを奪う場所ではありません。敬和学園は三年間の学校生活の様々な場面を体験することによって、一人ひとりが持つべき価値観を持った存在になってほしいと願ってきました。それが赤ん坊としてこの世界にやってこられた救い主イエス・キリストに応えることになると考えているからです。さらにそれがイエス・キリストを私たちのところに送ってくださった神様の愛に応えることです。これからもそうした感覚を大切にしながら教育に携わりたいと願っています。