月刊敬和新聞

2016年8月号より「敬和学園は○○のあなたにかかわりたいと願う高校です」

小西二巳夫(校長)

サッカー・プレミアリーグ「レスターシティの奇跡」
 「レスターシティ」はサッカーのイングランド・プレミアリーグに所属するチームです。このチームが創立以来132年目にしてリーグ初優勝をしました。これが「レスターシティの奇跡」と呼ばれて話題になりました。日本代表の岡崎慎司選手がチームの中心選手として活躍したので日本国内でも注目を集めました。レスターシティの優勝によってレスターの町のことが知られるようになりました。レスターは様々な民族が住む多文化都市です。5年前にイギリスで初めて移民が町の人口の半分を超えました。人口の30から40%がインドやパキスタン系の人です。これによって多数者と少数者の立場が入れ替わり、住民の間に摩擦が起き、トラブルになることもあるようです。

小説「おいぼれミック」
 レスターを舞台にした「おいぼれミック」という小説があります。主人公はハーヴェイというインド系住民でインドの宗教シク教一家の15歳の少年です。シク教というのはインドの身分制度であるカーストを完全に否定し、人間はすべて平等であると考える宗教です。物語はハーヴェィが引っ越してきたその晩に、隣家の老人ミックが怒鳴り込んできたところから始まります。一家はミックの言葉や態度にしばしば腹を立てながらも無関心ではいられませんでした。ハーヴェイはやがてミックの持つ悲しみや痛みを知るようになります。ミックが民族・人種差別主義者のような言葉を発するようになったのは、それなりの理由があったのです。「おいぼれミック」は、誰もが機会があれば自分を取り戻し、輝きを取り戻すことができることを教えてくれます。ハーヴェイの父が次のように言いました「おまえはよくやったよ、ここまでかかわろうとする若い子はなかなかいない。ふつうは、ミックみたいな老人がどんな問題を抱えていても、知らんぷりをするだけなのに」。
 かかわる人がいれば、たとえ年老いても成長することができるわけです。まして中学生高校生という年齢なら誰もが自分の可能性を信じていいわけです。

ある教師の言葉が教えてくれたこと
 一人の若い教師が私にいいました。「○○学年のA(生徒の名前)さんは××(存在を否定するとも取れる言葉)ですね」。彼は生徒に学校でしっかり学んでもらいたいと授業に懸命に取り組み、熱心に指導している先生です。しかし教師の成長してもらいたい、学ぶ喜びに出会ってもらいたいとの祈りは、相手にそうそう願いどおりに伝わりません。時には失望を覚えるような言葉を聞かさたり、こちらが思わず感情的になりそうな反応が返ってきます。彼はまさにそうした場面に出会ったのです。彼の落胆の気持ちはわかりました。しかし、それがその生徒のすべてではありません。あくまで一面です。そこで私はあえて言いました。「B先生、あなたはAさんとどのくらいかかわったことがありますか。Aさんの抱えているしんどさや痛みを知っていますか。Aさんも自分があなたに受け入れてもらえていると感じていたら、別の反応をしたのと違いますか。他の先生にもAさんがどんな生徒か聴いてみたらどうですか。そうしたら、もう少し奥行きのある見方ができると思います…」。
 生徒の一面だけを見て判断しない。一人の生徒をできるだけ多くの人で多面的に見る。それを突き合わせる時間をできるだけ多く持つ。これが敬和学園の教師が一人ひとりを受けとめ理解する際の出発点です。

○○のあなたにかかわりたい
 その気持ちを言葉にすると次のようになります。

「あなたにかかわりたい。
 悩みながら、涙を流しながら過ごしてきたあなたに、
 傷ついたあなたに、かかわりたい。
 学びたいとの気持ちに溢れているあなたに、
 高校生活に期待をかけるあなたにかかわりたい。
 人にかかわるのが苦手なあなたにかかわりたい。
 今のままのあなたでいいよとの思いを持ってあなたにかかわりたい。
 遠い昔に 悲しんでいる人のところに出かけていって、
 愛の言葉、ゆるしの言葉をかけたイエス様にならって、
 今を生きるあなたにかかわりたい」。

 人は多くのかかわりによって、その人が自分だけを輝かせるだけでなく、さらに他者を照らすような輝きを放つ人になっていくと敬和学園は信じているのです。