月刊敬和新聞

2014年10月号より「小さな夢と日常の小さな出会いが学校生活と人生をまっとうさせてくれる」

小西二巳夫(校長)

ローカル路線バス乗り継ぎの旅
 テレビの番組に「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」があります。低予算で作られ期待もされなかったのに、いつの間にか人気がじわじわ上がってきて、全国ネットで放映されるようになりました。出演者は元アイドルで50代半ばのまじめTさんと、どこまでもとぼけたような雰囲気の漫画家のEさんです。それに毎回違う女性ゲストが加わります。その三人が二泊三日から三泊四日の日程で、路線バスだけを乗り継いで目的地に向かうという旅番組です。

人気の秘密は何か
 この番組の人気の秘密は旅が本来持っている緊張感や危険性が十分に出ているからではないでしょうか。路線バス以外一切使えないのがルールですから、時には長い距離を歩かなければなりません。今の時代、欲しい情報は携帯端末を使えば簡単に手に入ります。しかし情報の入手はあくまで案内所できいたり、歩いている人に尋ねたりとアナログな方法しか許されていません。ローカルバスですので当然本数は多くありません。一本乗り遅れると二時間以上待つのもふつうです。バス路線そのものが廃止になっていたために、10㎞の山道を歩くことがあります。乗り継ぎ場所への到着が渋滞などで遅れたために、そのバスが発車しそうになっていて、あわてて追いかけて走ることがあります。半日以上足止めされることも日常的です。人間が計画した旅が思い通りにすすめられないことを目の当たりにさせてくれます。一生懸命乗り継いだけれど、制限時間内に目的地に到着できず、そこで打ち切りが告げられ何とも悔しい気持ちで番組が終わることも時として起こります。

大きな夢と小さな夢
 それだけに、彼らはちょっとしたことや小さな出会いに大きな喜びを感じるようです。ある回でのことです。前日は大雨で予定が大幅に狂いました。宿もどこも満員で、深夜近くになってようやく休むことができました。翌朝三人はぐったりしていたのですが、バスの中で突然Eさんが言いました。「この旅の間にスイカが食べたいなあ」。それを聞いたTさんは思わず答えました。「ちっちゃいなあ。スイカが食べたいなんて、小さい夢だなあ」。そして到着した道の駅で550円の小玉スイカを見つけたEさんたちは、それをお店の人に頼んで切ってもらい食べます。その瞬間、Eさんより先にTさんが叫びました。「うまい。生き返る。元気が出てきた」。夢は大きな方がいいと言われます。大きな夢を持ちなさいとも言われます。しかし私たちの毎日を元気にしてくれるのは、Tさんの叫びからもわかるように、むしろ小さな夢です。

旅人として生きる そこで学校生活と人生はまっとうされる
 キリスト教は人生を旅と捉えます。しかもその旅が順調であるとは考えていません。願っていないことや悲しいこと、辛いことなどが様々な形で降りかかってくるのです。だからこそ旅人の私たちに聖書は様々な言葉で励ましてくれます。イエス様はある時言われました。「思い悩むな」。悩む人間はダメだということではありません。人間が悩んだり心配したりするのは当たり前です。あれこれ悩みが尽きないその時にこそ、忘れないでいてほしいこと、思い出してほしいことがあるのです。神様はその日を生きるために必要な力やエネルギー、そして出会いを用意して下さっていることです。日常生活の中で繰り返される行為のそのものの中に用意されているというのです。だから今日という日を一生懸命生きましょうと励まされるのです。
 私たちは毎朝どのように起きるでしょうか。家族や寮の先生からの「いつまで寝ている。早く起きなさい」との小言や否定的な言葉で起こされるのと、自分の意志で早く起きるのでは、同じ行為であってもまったく違った意味を持ちます。小言によって起こされたその日一日がさわやかに過ごせる可能性は、自分の意志で起きることよりはるかに小さいはずです。早く起きると間違いなくお腹が減ります。ご飯がおいしと感じます。「おいしい」とのひらがなにすればわずか四文字の言葉によって、その日を生きる力や、明日を考えることのできる希望が生まれてくるのです。その繰り返しの延長線上に大きな夢や希望が見えてくるのです。自分の意志で学ぼう生きよう、そこに出会いと喜びが用意されているのです。敬和学園は2014年の後期をそうした小さなことの積み重ねと小さな出会いを大切にしながら、一歩一歩懸命に歩んでいきたいと考えています。